第48回Next Retail Labフォーラム開催レポート「偏愛主義が次なる小売を切り開く」




6月23日、第48回目になるNext Retail Labフォーラムが開催された。

今回はゲスト講師に齋藤 健一氏(株式会社ヘリテージ代表取締役社長)とNRLフェローでもある高橋 理人氏(株式会社HBIP代表取締役)をお招きし、「偏愛主義が次なる小売を切り開く」をテーマに、「ファンマーケティング」や「推し活」といった、消費者が愛情をもって商品やサービスに接する行動やその心理についてご講演いただいた。





1980年生。北海道出身。2005年よりリクルート入社。自動車部門のネット商品や買取、検査、保証、店舗など多くの新規事業を立ち上げる。2013年よりスマホ決済ベンチャーの事業推進責任者として日本のキャッシュレス決済の普及に尽力。2016年より事業開発専門会社を起業し、コンテンツのマネタイズモデルを作るべくアプリ・会員・ブロックチェーンなど複数企業の事業開発と事業再生を手がける。2018年より枻出版社から日本文化事業を事業譲受してディスカバー・ジャパン社を設立、代表に。2021年より同じくニッチジャンルのメディア事業を譲受、株式会社ヘリテージを設立、代表取締役を担う。



1982年にリクルート入社 勤続25年間で住宅(現・SUUMO)通算15年、95年設立のネット部署の責任者を6年、最後は自動車カンパニー長。2007年-2016年に楽天に在籍。EC担当常務執行役員として国内外のECモール事業、物流事業、直販事業、オークション事業などを担当。現在、LIFULL、Unipos、アディッシュの社外取締役および数多くの企業のアドバイザーを務める。

■ホスト:菊原政信 フィルゲート株式会社 代表取締役(NRL理事長)

■進行・モデレーター:藤元 健太郎 D4DR株式会社 代表取締役(NRL常任理事)

■ディスカッション参加フェロー:

・中見 真也氏 神奈川大学経営学部国際経営学 准教授

・逸見 光次郎氏 株式会社CaTラボ  代表取締役

・石郷 学氏 株式会社team145 代表取締役


目次

1 未来の小売のヒントとなる「偏愛ビジネス」とは

2 偏愛の定義

3 なぜ偏愛ビジネスが小売にとって重要なのか

4 未来の小売に必要な5つのキーワード

4.1 商品に対する売り手の愛

4.2 買い物空間の居心地のよさ

4.3 カテゴリブランドの確立とファンコミュニティの形成

4.4 機能価値・短期価値ではなく、感情価値・生涯価値

4.5 中の人の様子を発信

5 まとめ


未来の小売のヒントとなる「偏愛ビジネス」とは

偏愛ビジネスとは、「参加・共感」でモノを売るビジネスのことである。


商品やサービスに対して、愛が深いコアなファンやオタクな人が商品を紹介することで、同じ価値観をもつファン層がコミュニティに参加し、共感を覚えることで、モノを売るつもりがなくても買ってくれるビジネスの形だ。


斎藤氏は、株式会社ディスカバー・ジャパンに在職時、100以上の日本の老舗企業の方と話していくなかで感じた、「モノ・ヒト・技術」が永く続くように大切にしたいという思いが、ヘリテージの価値観に反映されている。

大量生産・大量消費時代が終わり、新しいビジネスの形が模索されている中で、ヘリテージでは永く続くことに重点を置き、偏愛主義をテーマに事業を展開している。



偏愛の定義

ヘリテージにおける偏愛の定義は、「1つのモノを好きでひたすら買い続けること」としている。


好きがゆえに、対象商品の購入回数やアクション回数が、生涯購入回数や平均アクション回数を超えるような人たちを指す。



(齋藤氏資料)


実際にヘリテージのスタッフには、革ジャンや万年筆を40以上もっている人たちがいるという。このような偏愛をもっている人たちを「偏愛者」「○○沼」などと表現している。偏愛者であるスタッフが偏愛品(偏愛者が愛してやまない商品やサービス)の魅力を、イベントや出版、ライブコマースなど様々な媒体で発信することで、ニッチなニーズに応えたビジネスを成り立たせている。



なぜ偏愛ビジネスが小売にとって重要なのか

偏愛ビジネスが小売にとって重要な理由、それは「One to One」の接客に対応できるからである。


消費者の好みや欲求は多様化するなかで、ひとりひとりの状況などにあった対応が顧客満足度を高める要因となっている。商品を紹介する人がその商品の偏愛者であれば、お客様のレベルに合わせた最適な商品を紹介することができる。


逸見氏(フェロー):偏愛というと偏ったイメージを持たれることもあるが、実際はお客様によっておすすめや説明の仕方を変えていることがカギとなる。例えばカメラであれば、小さいお子さんを撮りたいという初心者のお客様には持ちやすさや操作の易しさをポイントに説明するが、マニアのお客様にはレンズの収差など専門的な説明を交える、といった柔軟な対応によって、ファンを増やし、育て、LTV(ライフタイムバリュー)を高めることができる。


このように、偏愛を小売ビジネスに取り入れることで、小売業界での優位性や差別化のポイントになると議論されていた。



未来の小売に必要な5つのキーワード

ここからはヘリテージ社が偏愛ビジネスにおいて大事にしている点や議論から出てきた次世代の小売業に通ずる5つのキーワードを解説する。


1. 商品に対する売り手の愛

1つ目は、商品に対する売り手の愛が深いかどうかである。


商品に対する売り手の愛が深いと、モノを売らなくても売れるという不思議な現象が起こるという。

ヘリテージが行うライブコマースでは、売り手である偏愛者が商品のうんちくや雑談、自慢話などを語る。偏愛者が商品に対する愛を語れば語るほど、同じような価値観をもった視聴者にも愛が伝わり、偏愛者に対する共感や信頼が生まれる。


売り手が偏愛者だからこそ、買い手に起こる共感や信頼が消費者の購買欲求を高め、購買行動を促しているという。



2. 買い物空間の居心地のよさ

2つ目は、消費者にとって居心地のいい買い物空間を提供できているかどうかである。


ヘリテージでは、その場で商品を買ってくれる人も重要だが、それ以上にその場で商品を買わなかった人を重要視しているという。消費者が今日は買わないと判断しても、もう一度ここに来たい!と思わせるための楽しい空間を提供することに力を入れている。


このようにして偏愛者のファンを作ることはLTV(ライフタイムバリュー)を向上させるためにも有効になる。


3. カテゴリブランドの確立とファンコミュニティの形成

3つ目は、カテゴリでのブランドを確立することと同時に、ファンが気軽に参加できるコミュニティを形成することである。


企業ブランドと商品ブランドの間にある、カテゴリブランドでファンをつくる仕掛けができているかどうかが重要となる。小売業にとってカテゴリでブランドを確立させることは非常に難しく、企業ブランドからカテゴリブランドへ移行するか、商品ブランドからカテゴリブランドへ移行するかで、実際の小売業界は悩んでいる。そのなかでヘリテージの偏愛者ビジネスでは、「ヒト」をコンテンツとして確立させることで、カテゴリブランドの確立に成功しているという。


カテゴリでブランドを確立することで、偏愛品の横展開も可能であるという。

例えば、「革」というカテゴリが好きな革ジャン偏愛者に革のペンケースを紹介すると欲しくなり、購買行動を起こす。このように偏愛者であってもカテゴリにおける横展開まで考えていないことが多く、ユーザーの購入視野を広げるといったことも可能になる。




(齋藤氏資料)


また、カテゴリブランドでファンをつくるためには、ファンの心理を理解するためにも気軽に参加できるコミュニティの場を提供することが重要になる。ライブコマースは、作り手・編集者・受け取り手の三者が接点をもつことが可能になり、作り手の気持ちなどが共有できる新しい手段となりうることも示唆された。


4. 機能価値・短期価値ではなく、感情価値・生涯価値

4つ目は、商品は感情価値・生涯価値を付加しているかどうかである。


ヘリテージでは、ピックアップとバリューアップを大事にしている。つまり、商品の機能価値ではなく、感情価値で売る。また、短期価値ではなく、生涯価値で売ることを念頭に置いている。

専門性の高い古品(永く残るもの)がヘリテージの取り扱う商品の強みだが、ここには、永く使えるものこそいい商品であるという考えが背景にある。だからこそ、商品を売る際も、5年後、10年後までの使用を見通して提案しているという。



(齋藤氏資料)


実際にバッグの販売ライブコマースを行った際に、「葬儀に飾るバッグ」というコンセプトで、自分の葬儀の際に飾るバッグは大切に取り扱ったバッグを飾りたいという新しい視点での売り方を提示した。これは、メーカーが考えていなかった新しい視点での商品の生涯価値を作り出すことも偏愛者が売り手であることによる独自の生涯価値の付け方といえるだろう。


またディスカッションでは、リペアエコノミーの可能性について議論になった。


藤元(モデレーター):リペアはヘリテージにとっても次のビジネスチャンスになるのではないか。持っているものをリペアできるとなれば、さらに深みにはまっていくファンも少なくないと考えられる。


齋藤氏:我々としては、より多くの選択肢を持ってほしいと考えている。愛着があるものは、新品を買ったほうが安くても直して長く使いたいという声も聞く。



5. 中の人の様子を発信

5つ目は、実際の制作過程など、中の人の様子を発信していることである。


偏愛者の独自の世界観は制作過程にも存在している。腱鞘炎になりながら、いただいた手紙すべてにお礼を送る人や、2週間かけて会員証について考え、作成していることも。偏愛者のこだわり抜く様子がコンテンツとして発信されることでファンが生まれる。



(齋藤氏資料)


実際に、ヘリテージでは指名制でコンテンツ作成の依頼が来ることが多いという。美容室でお気に入りの美容師を指名するように、人そのものがコンテンツとしての役割を担っている。


中見氏(フェロー):プライドがある人は信頼できる。人がコンテンツと言っても過言ではない。ブランドコミュニティを創って育てる上では、そういう人たちが中心となって発信することで、参加者もコメントしたくなり、活性化につながる。



まとめ

ヘリテージ社の偏愛者ビジネスは一風変わったように見えるが、現在の小売業が10年後、20年後まで生き抜くための必要な要素が多く盛り込まれた内容であった。

ファンマーケティングや推し活ビジネスを小売業にうまく取り込むことによって、「参加・共感」できる小売が、新しい小売の形として拡大していくだろう。ビジネスにおいて、売り上げ、利益などの数値は重要であるが、売り手が商品を好きかどうか、買い手が参加・共感できたのかどうかを指標として、数値化していくことも今後は重要になってくるだろう。



◆次回第49回Next Retail Labフォーラムご案内◆

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