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【イベント報告】第73回NRLフォーラム「パラダイムシフトを機に何を始めるか? ネット黎明期の起業活動をふり返り、AI時代を展望する」(2025/7/30)


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インターネットの商用利用が始まってからおよそ30年。社会やビジネスの在り方は大きく変容し、私たちはその恩恵を日常の中で受けています。そうした変革の第一線でインターネット黎明期より活躍してきた起業家たちをお招きし、「パラダイムシフトを機に何を始めるか?」をテーマに、第73回 Next Retail Labフォーラムが開催されました。

本フォーラムでは、株式会社マーケティングジャンクション 代表取締役の吉澤隆氏をお迎えし、ネット黎明期の起業活動をふり返りつつ、今後AI時代に求められる発想や行動についてご講演いただきました。また、スペシャルゲストとして、同じく早期からインターネット事業に携わられてきたアイランド株式会社 代表取締役 粟飯原理咲氏、GoGlobal Catalyst Pte. Ltd CEO 平石郁生氏にもご登壇いただき、深い知見を共有していただきました。

さらに、当会フェローによるディスカッションでは、現役大学生の参加も交えながら、世代を超えた視点でテーマのさらなる掘り下げが行われました。

講師:

吉澤 隆 氏(株式会社マーケティングジャンクション 代表取締役)

スペシャルゲスト講師:

粟飯原 理咲 氏(アイランド株式会社 代表取締役)平石 郁生 氏(GoGlobal Catalyst Pte. Ltd CEO)

ディスカッション参加フェロー:

石郷 学 氏(株式会社team145 代表取締役)川連 一豊 氏(JECCICAジャパンEコマースコンサルタント協会 代表理事)

ホスト:

菊原 政信 氏(フィルゲート株式会社 代表取締役/Next Retail Lab 理事長)

モデレーター:

藤元 健太郎 氏(D4DR株式会社 代表取締役/Next Retail Lab 常任理事)

 

 

 

パラダイムシフトを機に何をはじめるか?ネット黎明期の起業活動を振り返り、AI時代を展望する(吉 隆 氏:株式会社マーケティングジャンクション 代表取締役)


 

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吉澤隆氏(株式会社マーケティングジャンクション 代表取締役)は、インターネット黎明期からビジネスの第一線に立ってきたご自身の経験をもとに、「パラダイムシフト」とは何か、そしてそれを起点として“何を始めるべきか”を、過去・現在・未来の三層構造で語りました。

講演の冒頭で提示されたのは、「パラダイムシフトとは、支配的な理論や価値観が根底から覆され、全く異なる枠組みに置き換わる劇的な変化である」という定義です。科学の世界にとどまらず、社会やテクノロジー、そして人々の“見方”や“問いの立て方”さえも変えてしまうこの変化は、たしかにインターネットの登場によって現実のものとなったと氏は振り返ります。


■「Way Back Home」


吉澤氏が印象的に用いたフレーズが「Way Back Home」という言葉でした。これは、テクノロジーが単なる未来的な象徴としてではなく、私たちの手元に届き、「道具」として生活に根ざしていくプロセスを指します。

氏が1994年に手に入れたMac SE30は、まさに“未来”を持ち帰るような体験だったと言います。個人がコンピュータを持ち、通信ができるようになったとき、「生活そのものを自分で編集できる」という感覚が生まれた。その可能性は、後のeコマースやブログ文化、SNSのような自己表現の土壌にもつながっていきました。

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■ ネット黎明期にあった「素人性」と「共感」の力


当時のネット空間では、専門家が不在であることが強みでもあったと氏は振り返ります。「みんなが素人だった」からこそ、正解や型にはまらない自由な発想が生まれました。

特に注目されたのが、女性たちのネット参入による文化的転換です。「女もやってる」と見出しになるような時代に、花子ネットや@cosme、レシピブログのような“共感”と“日常感”を軸にしたサービスが次々と登場します。ここではマーケティングよりも“生活提案”が重視され、商業よりもコミュニティの先行が見られたといいます。


■ 市場の構造を変えた「買い手が売り手になる」時代


吉澤氏はまた、インターネットによって「市場の構造そのものがひっくり返った」と指摘します。インターネットの発展により、買い手がそのまま売り手になる時代が訪れました。加えて、従来は電波や紙といったインフラを介していたメディアが、「コンテンツそのものがメディアになる」という大きな転換を見せます。

つまり、“情報を持っている人”ではなく、“何かを体験し、表現できる人”がメディアの担い手になる時代が来たのです。そこにいたのは、かつての「素人」たちでした。


■ インターネットの進化を「スパイラル」としてとらえる


このような変化に対して、吉澤氏は「過去から未来へ一直線に進むもの」ではなく、“スパイラル(螺旋)”のような動きとして捉えるべきだと提案しました。



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■ AI時代の新たなパラダイムへ


現在進行中のパラダイムシフトとは何か。吉澤氏は、過去を以下の三段階で整理します。

 

コンピュータの民主化(1990〜1998)

 →操作する力の解放。誰もがキーボードの前でアイデアを形にできるようになった。

情報の民主化(1999〜2020)  →アクセスと発信の自由。スマホ普及により、誰もがメディアになれる時代へ。

知の民主化(2020〜現在)

 →AIの普及により、創造・思考の領域が誰にでも開かれ始めている。

 

今、私たちは「知の民主化」という第3の波の真っ只中にいます。生成系AIが登場したことで、情報を集めるだけでなく、「考えること」「生み出すこと」にも他者(AI)の力を借りる時代が到来しました。

しかし同時に吉澤氏は問いかけます。メタバースや擬似体験が進むこの時代に、「こっちの世界」と「向こうの世界」、私たちはどちらで“暮らしていく”のだろうか?

かつてのネット黎明期に、誰もが素人だったからこそ生まれた自由な創造。その精神は、今の私たちにも、そしてAI時代にも、きっと受け継がれていくのではないでしょうか。

 

女性視点から見るインターネット黎明期と「好き」から始まる起業(栗飯原理咲氏:アイランド株式会社 代表取締役)

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栗飯原氏は、インターネット黎明期から女性ターゲットのWebメディアを開発・運営してきた経験をふまえ、当時のネット社会の空気感や、そこから生まれた新しい価値についてふり返った。

講演の冒頭で語られたのは、「好きなものを追いかけていたら、それが仕事になっていた」という言葉。ビジネスのために市場を探したのではなく、まずは「自分が欲しい」「誰かの役に立ちそう」という実感からスタートしたという。その結果として、“共感”や“生活知”を軸にした女性中心のネットサービスが形づくられていった。

氏が関わった「朝時間.jp」などはその象徴であり、単なる情報提供にとどまらず、「こんな情報が欲しい」「こういう場があったらいいな」というユーザーの声に応えるプラットフォームとなった。

 

また、「当時は“女性がネットをやっている”こと自体がニュースになる時代だった」というエピソードからは、いかに女性たちがネット空間の開拓者だったかが伺える。それと同時に、「感性」や「生活視点」を軸とした情報発信が、やがてレシピブログやアットコスメといったサービスの先駆けとなったという指摘は、インターネット文化における女性の貢献を再評価する機会となった。

 

平石郁生氏(GoGlobal Catalyst Pte. Ltd CEO)ー生成系AI時代に求められる現実的視座と戦略的発想

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平石氏は、シリコンバレーを拠点に投資・起業支援を行ってきた視点から、生成系AIを中心とした現在のテクノロジー動向と、それに伴うグローバル競争の厳しさについて現実的な視座を提示した。

特に強調されたのは、「資金調達力がなければ、グローバルでの勝負は極めて難しい」という点である。生成系AIは、莫大な計算資源やデータを必要とする領域であり、すでにGoogleやOpenAIといった大手企業が主導権を握っている構造のなかで、一部の才能ある個人や資本力を持つ企業以外の生存戦略をいかに構築するかが問われているとした。

また、彼は「単に技術力があるだけでは不十分」と述べ、どの国のどの文化圏に、どんな価値を届けられるのかという“文脈の理解力”や、ユーザー視点でのプロダクト設計、そして何より持続可能な事業設計の重要性を強調した。

その言葉は、吉澤氏の「民主化のスパイラル」や、栗飯原氏の「好きなことから始まる起業」といった理想に対し、グローバルな現実とのギャップを浮かび上がらせるものであり、理想と現実の接点をどう設計するかを考える重要な問いかけとなった。


◾️ディスカッション「AI時代に、私たちはどう動くべきか?」

 

講演後半では、登壇者とフェロー、そして会場の学生も交えたディスカッションが行われました。生成系AIの進化やEC市場の変化、教育や小売の未来など、さまざまなテーマに対して活発な意見交換がなされました。

 

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・AIに仮想インタビューさせることは意思決定として有効か?」


モデレーターの藤元氏は、「仮想ペルソナを立て、AIにインタビューさせることで意思決定してしまっていいのか?」という問いを登壇者に投げかけました。

この問いに対し、登壇者の見解は大きく分かれました。

吉澤氏は、AIが示す複数の思考パターン、たとえばエビデンス型やコンテキスト型の可能性に注目し、「人とAIのハイブリッドな意思決定」を肯定的に捉えました。人の判断力を補うツールとしてAIを位置づける柔軟なスタンスが印象的でした。


一方、平石氏は慎重な立場を取りました。「AIは数学モデルであり、そこにはストーリーがない。ナラティブがなければ、人の心は動かない」と述べ、創造や感情のような本質的価値はあくまで人間にしか担えないと強調しました。

この議論に関連して粟飯原氏は、情報の受け手と発信者の関係が変化している点に言及。「いまはすべての人が“インフルエンサー”になれる時代」と語り、個人がコンテンツそのものになりつつある現代の情報構造を補足しました。

 

・「検索流入が難しくなった今、ECはどう展開すべきか?」


この投げかけに対し、粟飯原氏は「これからのECは“人軸”へとシフトしていく」と力強く語りました。

具体的には、「この人のおすすめだから買いたい」という動機が消費行動の中心にあるとし、ブロガーやインフルエンサーなどの“推し”と結びついたコミュニティ型ECの重要性を強調。購買行動そのものが、共感や憧れを軸としたストーリーに移行しているという分析は、多くの聴衆の共感を呼びました。

 

 ・「AI時代に、今学生だったら何に挑戦しますか?」


最後に、会場に参加していた学生から「まだやりたいことが見つかっていない。そんな自分は何に挑戦したらいいのか」というリアルな問いが投げかけられました。

 

粟飯原氏は、「やりたいことが明確でなくても、まずは動いてみることが大切」と励まし、小さな興味から世界が広がること、翻訳ツールを活用して海外に出るなどの具体的なアクションを提案しました。

平石氏は即座に「間違いなくシリコンバレーに行く」と回答。続けて、「英語・ファイナンス・プログラミングの3つは間違いなく武器になる」と語り、AI時代における“行動力”と“スキル”の重要性を強調しました。


◾️講演をふり返って:時代を越えて響き合う「はじまり」の感覚

 

3名の登壇者による講演では、それぞれの立場から、時代の変化にどう向き合い、「何かを始めたのか」という実体験が語られました。

吉澤氏は、コンピュータやネットが一部の人のものではなく、誰もが使える“道具”になっていった過程を「民主化のスパイラル」と表現し、テクノロジーが人々の手に渡っていく感覚を具体的に示しました。粟飯原氏は、「あったらいいな」や「自分が欲しい」という素直な気持ちが起業につながっていったと語り、特別な構想や戦略よりも、日常の中にある感性が原点になりうることを教えてくれました。そして平石氏は、AI時代におけるグローバル競争の現実を示しながら、理想を形にするには「構造的な強さ」が必要だという視点を提示しました。技術が進化し、常識が書き換えられていく中で、私たち学生にも「問いを持つ力」や「未来を描く力」が問われているのだと感じました。

 

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文:青山学院大学経営学部 大谷凜花

 
 
 

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