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【イベント報告】 第74回NRLフォーラム「ついに日本でもライブコマースが本格化するか?TikTok Shopの課題と可能性」(2025/10/01)

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ECも静止画の時代から動画の時代になってきた。特に最近注目されているのは6月から日本でのサービスが開始されたTikTok Shop。

これにより、TikTokアプリ内でショート動画やライブ配信を視聴しながら、直接商品を購入できるようになった。

そこで今回は、インフルエンサーマーケティングの第一人者C Channel株式会社 代表取締役社長 森川亮氏、株式会社enlarge 代表取締役 林竺青氏を迎えて「ついに日本でもライブコマースが本格化するか?TikTok Shopの課題と可能性」として題して講演して頂いた。


講師:

森化 亮 氏(C Channel株式会社 代表取締役社長)

講師:

林 竺青 氏(株式会社enlarge 代表取締役)

ゲストフェロー:

山下 智博 氏(株式会社ぬるぬる 代表取締役)

ホスト:

菊原 政信 氏(フィルゲート株式会社 代表取締役/Next Retail Lab 理事長)

モデレーター:

藤元 健太郎 氏(D4DR株式会社 代表取締役/Next Retail Lab 常任理事)


ついに日本でもライブコマースが本格化するか?TikTok Shopの課題と可能性

 

森川 亮 氏(C Channel株式会社 代表取締役社長)

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C Channelの森川氏によるプレゼンテーションでは、美容やライフスタイル分野に特化したSNSマーケティングの最新動向についての紹介があった。Cチャンネルは2015年に創業し、約10年の実績を活かして、ショップ運営からライブ配信、UGC(ユーザー生成コンテンツ)を活用した拡散まで、ECプロモーションをトータルで支援している。


特に注目すべきは、ライブコマースの活用だ。これは従来のテレビショッピングに代わる新しい販売手法で、アメリカでは2023年に約2,300億円もの流通総額(GMV)を記録した。一方、インドネシアでは売れすぎたことによりTikTokコマースが禁止されるという事例もあるほど、その影響力は拡大している。


日本市場については、化粧品業界の売上がわずかに伸びているものの、競合の増加やEC化の遅れが課題となっている。日本ではオフライン販売が非常に充実しているため、そもそもECがあまり発展してこなかった背景がある。しかし、今や「やらないこと」が損失につながる時代だ。


TikTokショップはGMVの成長率が高く、出だしとしては良好である。日本の従来型EC運用とは異なる特徴を示している。従来の「ユーザーが商品を探す」モデルではなく、「商品がユーザーを探す」仕組みが形成されており、新しい購買体験が始まっている。この変化は、アルゴリズムによるレコメンドや動画コンテンツの拡散力によって実現されており、消費行動そのものの構造的転換を示しているといえる。


TikTokショップは初期購入者を効率的に集客できるプラットフォームであり、ブランドにとって新しい体験提供の場となり得る。特に広告費をかけずとも、優れたコンテンツが拡散されれば自然に購買へとつながる構造を持つ。そのため、成功の鍵は「コンテンツ設計」にある。単なる商品紹介ではなく、ユーザーの共感や興味を喚起するコンテンツを企画・制作することが最重要であり、まさにコンテンツ勝負の時代であるといえる。


中国のライブコマースの歴史とこれからのライブコマースの未来について


林 竺青 氏(株式会社enlarge 代表取締役)

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林氏のお話からは、中国のライブコマース事情を中心に学ぶべきことがたくさんあった。

中国のライブコマースは2019年から始まり、特に2023年以降にその伸びが顕著となっている。初期の2019年から2020年にかけては、インフルエンサー主導の時代であり、多くのライブ配信が人気インフルエンサーに依存していた。


しかし、2021年から2022年にかけては、自社によるライブ配信が急速に成長し、ブランド自らが直接配信するスタイルへとシフトした。これにより、インフルエンサー依存から脱却し、ブランドの独自性や信頼性が高まる流れが生まれた。そして2023年以降は、自社ライブ配信がライブコマースの主流となっている。

林氏は、TikTokShopをただ売るためではなく、一つの認知策として利用していくべきと述べている。


TikTokショップの日本展開を支える三要素


山下 智博 氏(株式会社ぬるぬる 代表取締役)

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山下氏は、中国において600万人ものフォロワーを持つインフルエンサーの方で、このコミュニティの強みは、豊富なデータや情報を活用しながら、メンバー同士の横のつながりを大切にしている点と述べた。


山下氏の話からTikTokショップが今後日本で定着・拡大していくためには、「データ」「コミュニティ」「情報」の3つの要素が極めて重要である。これらは、単に販売促進の仕組みではなく、プラットフォームとしての持続的なエコシステムを形成する基盤となる。            


フェローディスカッション


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ディスカッションの様子

このディスカッションでは、ライブコマースや投げ銭ビジネスを中心に、日中の市場比較や消費者心理、今後の展望について多角的な意見が交わされました。


投げ銭とTikTokショップの関係性について


森川氏は、投げ銭ビジネスとTikTokショップの直接的な連動には限界があると指摘していた。投げ銭は主に「異性への好意」や「応援の気持ち」に基づく行為であり、必ずしも購買行動にはつながらないため、コマース化の難易度が高いという見解である。


一方で、既存のファン層に対して商品を販売することは可能であるが、それ以上の拡張性には乏しいと述べている。むしろ、専門性や明確なコンセプト、ブランドストーリーをもって発信するクリエイターの方が、TikTokショップでの販売成績を伸ばす傾向にあると分析している。


また、中国市場では偽物販売が横行している現状に触れ、同様の傾向がTikTokにも見られると懸念を示している。その上で、店舗スタッフなど「信頼できる販売者」が登場することによって、購入者の信頼度が高まり、より健全なコマース環境が形成されるのではないかと述べていた。


林氏は、投げ銭配信者は「話し上手」であるという強みを持っており、その点においてライブコマースにも通じるアドバンテージがあると述べている。ライブ配信では、商品の魅力を具体的かつ自然に伝えるトーク力が成功の鍵であるため、コミュニケーション能力に長けた投げ銭配信者はコマース領域でも一定の成果を出す可能性があると分析している。


山下氏は、エンタメ系の配信者がライブコマースで必ずしも成功するとは限らないと指摘している。その理由として、新しいプラットフォームでは必ず「新たなスター」が生まれる構造があるため、既存の人気者がそのまま成功するとは限らないと述べている。


加えて、ユーザーがプラットフォームごとに求める体験や価値が異なるため、TikTokにおいては「TikTokらしいスター」が登場し、その人物がプラットフォームを代表する存在になると分析している。


EC販促の限界とライブコマースにおける商品・コンテンツの関係


近年、従来型のEC販促が効きにくくなっており、消費者の関心は単なる価格訴求よりも「商品力」や「ブランド力」の強い商材へと移行している。こうした状況の中で、ライブコマースは新たな販売チャネルとして注目されているが、継続的に成功するためには「配信で扱いやすい商品」であることも重要な要素となる。


森川氏は、現代のライブコマースでは「商品」そのものよりも「コンテンツ」の魅力が購買を左右していると指摘している。そして現在、そのコンテンツの中心的存在は「インフルエンサー」であると述べている。


TikTokなどのプラットフォームでは、ユーザーの購買行動が衝動的であるため、従来のようにブランド力で勝負することが難しいという課題がある。すなわち、ブランドの認知や信頼性よりも、どれだけコンテンツが視聴者の興味を喚起し、瞬間的に購買意欲を刺激できるかが重要であると述べた。


林氏は、中国ではライブコマースの普及に伴い、「ライブ配信で紹介しやすい商品」を開発・設計する企業が増えていると指摘している。これは、単に既存の商品を販売するのではなく、ライブ配信での見せ方やリアクションを意識した商品づくりが進んでいることを意味する。


すなわち、ライブコマースが単なる販売チャネルではなく、商品開発の段階から影響を与える存在になっているといえると述べている。


自社ライブ配信の現状と課題


林氏は、知名度の低いブランドにとって自社配信だけで集客することは難しく、初期段階ではインフルエンサーの力を借りる必要があると指摘している。


その一方で、自社ライブ配信が流行している背景には「コストパフォーマンスの良さ」があると述べている。すなわち、インフルエンサー起用に比べて費用を抑えつつ、ブランド独自の世界観を直接発信できる点が自社ライブの強みであるという見解である。


山下氏は、Instagramのような「美しさ」や「完成度の高いビジュアル」を重視するプラットフォームとは異なり、ライブ配信では“ありのまま”のリアルさが価値になると述べている。


ライブは加工された演出よりも、自然体のトークや空気感が共感を生むメディアであり、そのためアフィリエイター(商品紹介者)にとっても売りやすく、またコンテンツを作りやすい環境であると分析している。


森川氏は、現状のライブコマースでは「誰から何を買っているのか」が不明瞭になっている点を課題として挙げている。つまり、販売者の信頼性や個性が十分に伝わらない状態では、ユーザーの購買体験が浅くなり、リピートやブランドロイヤルティにつながりにくいという指摘である。


ライブ配信の効果を最大化するためには、単に商品を紹介するだけでなく、「誰がどんな想いで売っているのか」という文脈を明確にする必要があると考えられると述べた。


ライブ配信の視聴実態と時間帯に関する考察


山下氏は、「ライブ配信は暇な人が見るものなのではないか」という問いに対し、中国の視聴者は“ながら見”をする傾向が強いと述べている。つまり、何かをしながらスマートフォンでライブを視聴する行動が一般化しており、中国ではスマホ依存的な視聴文化が形成されていると指摘している。


また、ライブコマースが必ずしも成功しない理由として、視聴者が必ずしも「購買」を目的に視聴しているわけではなく、「楽しむこと」や「暇つぶし」を目的にしている場合が多い点を挙げている。そのため、エンタメ性を重視したファン向けの配信は成立しやすいが、購買につなげるのは難易度が高いという分析である。


林氏は、ライブ視聴者は真剣に内容を見ているわけではなく、軽い気持ちで“適当に”視聴しているケースが多いと述べている。そのため、配信者側も過度に演出や構成を練りすぎる必要はなく、自然体で親しみやすいトーンの方が視聴者との距離が縮まると指摘している。視聴の“ゆるさ”が、逆にライブコマース特有の空気感やリアリティを生み出しているともいえると述べた。


森川氏は、ライブ配信の時間帯として「早朝」が有効であると述べている。早朝は他の配信が少なく、競合が少ないため、視聴者との接触機会を確保しやすいという利点がある。また、通勤・通学前の時間帯は“ながら視聴”が起こりやすく、一定のエンゲージメントを得やすいと考えられる。


TikTokライブの浸透課題と今後の可能性


森川氏は、TikTokライブが若年層にまだ十分浸透していない要因の一つとして、「消費者の価格重視傾向」を指摘している。結局のところ、多くの消費者は安価に購入できる場所を選択する傾向が強く、TikTokライブでの購買に必ずしも魅力を感じていないのが現状である。したがって、単にライブ配信を行うだけでは購買行動を喚起しにくく、他のECサイトとの差別化が不可欠であると述べた。


林氏は、過去にヤフーがコンタクトレンズの低価格販売で大きな成功を収めた事例を挙げ、価格競争による成功モデルが存在することを認めつつも、TikTokライブが発展するためには独自のUSPを確立する必要があると述べている。


すなわち、他のECプラットフォームでは得られない「TikTokライブならではの購買体験」や「ライブ視聴者との一体感」を明確に打ち出せるかどうかが、今後の成長を左右する鍵となる。


山下氏は、日本には「推し文化」が根付いており、「この人から買いたい」という感情が購買行動を強く動かす傾向があると指摘している。そのため、価格よりも感情的価値が重視される場面が増える可能性がある。


また、例として「ふるさと納税における農家のライブ配信」を挙げ、販売者自身の想いや背景を可視化することで商品に新たな価値が生まれると述べている。


消費者の心に響く物語性を付加できるかどうかが、TikTokライブにおける成功の分かれ目であり、“心に響く価値”を伝えられる人こそが、モノを高く売るチャンスを得ると分析している。




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商品がユーザーを見つける時代 ― TikTokに見る新しい購買体験とマーケティングの変化 興味深かったのは、「ユーザーが商品を探すのではなく、商品がユーザーを見つける」という新しい購買体験の考え方だ。SNSを通じて偶然商品と出会い、思わず衝動買いしてしまうケースが増えており、これは従来のECとは全く異なる流れだと感じた。


ただし、こうした購買はリピート率が低い傾向もあり、戦略的なアプローチが求められる。

TikTokの運用についても、単に商品を売る場ではなく、インフルエンサーによる自然な発信が鍵となっている。


特に、マイクロ~ミドルインフルエンサーの起用や、UGCの量を増やすことが効果的だとされており、「リアリティ」が成功の重要な要素である。ライブコマースも、ただ配信するだけでなく、新規顧客の獲得や導線設計といった戦略的な活用が求められると感じた。


全体を通して、これからの時代は「広告」よりも「コンテンツ」が人の心を動かす力を持つと強く思った。売るために押し付けるのではなく、自然な形で“好きになるきっかけ”を作る。そのための方法として、SNSやライブコマースは非常に有効だと再認識できた。


文:神奈川大学 経営学部 佐藤櫻花


 
 
 

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