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【イベント報告】人的資本経営時代における、リテール人材のあり方とは(8/30第59回NRLフォーラム)



2023年8月31日、第59回目となるNext Retail Labフォーラムが開催された。


Next Retail Labとは、「次世代の小売流通」をテーマにした研究会で、製造から小売りまで、さまざまな業種に関して調査研究をしたり、マーケティング視点での提言を行ったりする任意団体である。


今回は「人的資本経営時代のリテール人材のあり方」をテーマに3人のゲスト講師が登壇しそれぞれの取り組みについて紹介したほか、Next Retail Labのフェローも参加したディスカッションが行われた。

未来に向けて求められる真の人的資本経営とは何なのかーー。リテール業界の抱える課題や対策とともに考察したフォーラムをレポートする。


目次)


講演

・有価証券報告書から見えた現状と課題、これからの人的資本経営に必要な視点とは

(田中弦氏:Unipos株式会社)

・パフォーマンス向上に寄与するタレントマネジメント、データ活用で見える企業の未来

(山夲哲平氏:株式会社プラスアルファ・コンサルティング)

・右肩上がりの成長と離職率半減の背景にある、「人は最も大切な財産」とする経営理念

(森茂樹氏:株式会社スギ薬局)


ディスカッション

・多忙な人事担当者が、いかにして人的資本経営推進に携わるか

・価値観が変化する中、人的資本経営に必要な対策は

・経営戦略に人的資本経営を位置づけ、経営者と個人双方の視点を


まとめ


登壇者)

■講師:

田中弦氏 Unipos株式会社代表取締役社長

山夲哲平氏 株式会社プラスアルファ・コンサルティング       タレントパレット事業部副事業部長

森茂樹氏 株式会社スギ薬局取締役管理本部長      株式会社MCS代表取締役社長      スギスマイル株式会社代表取締役社長

■ホスト:菊原 政信 フィルゲート株式会社 代表取締役(NRL理事長)

■進行・モデレーター:藤元 健太郎 D4DR株式会社 代表取締役(NRL常任理事)



有価証券報告書から見えた現状と課題、 これからの人的資本経営に必要な視点とは (田中弦氏:Unipos株式会社)


最初に講演したのは、Unipos株式会社代表取締役社長の田中弦氏。Uniposは、従業員同士が感謝や称賛を伝え、インセンティブを送り合う仕組み「ピアボーナス」のサービスなどを通じ、企業のエンゲージメント向上やマネジメントの強化などをサポートしている。


2023年3月期決算から、有価証券報告書で人的資本経営の記載が義務付けられたことを受け、田中氏は「人的資本経営の最前線」と題し、企業がどのように人的資本に投資していくべきかを講演。数千に及ぶ企業の有価証券報告書を読み込んでわかった現状や今後の小売り企業に必要な取り組みなどを紹介した。


田中氏によると、現状では人的資本開示が充実している企業は約1割のみで、女性活躍・有給取得率等の数値開示にとどまっているものが多いという。「現状は厳しい」という認識を示した上で、まず、具体的な解決策の一つとして議論に用いるフレームワークが紹介された。


田中氏によると、人的資本経営について考える際、どうしても個別の施策の中身にばかり議論が行きがちだ。しかし、具体的な施策を考える前に、企業として目指す理想の姿や実現すべきパーパス・ミッションがあり、そことのギャップを課題として理解する必要がある。田中氏の提案する「課題は伸びしろフレームワーク」では、理想を確認し、現実とのギャップを課題として整理したうえで施策に落とし込み、アウトプットにつなげていくという、人的資本経営を考える上で必要なステップが示されている。



もう一点、田中氏が提示したのは、「人的資本経営の主役は社員一人一人」という観点だ。

「これまでは、従業員は会社のものだと捉えて経営している経営者が多かったと思います。しかしもともと人的資本はそれぞれ個人の持ち物です。それをどうやって組み合わせて組織的な人的資本に変えるかという意識が薄いのではないでしょうか」と指摘。前述のフレームワークを進化させ、会社視点ではなく従業員が主役となる情報開示をしている企業の実例について紹介した。


そのうちの一つ、総合商社の双日は、従業員を主語にしたエンゲージメントサーベイの結果を開示。会社が何をしたかではなく、従業員がどう感じているかという観点から、風通しがいいか、起業家精神を培っているか、従業員が成長できる風土かを示している。


また、イギリスの製薬メーカー・アストラゼネカは、「83%の従業員が、アストラゼネカには素直に発言できる文化があると感じている」という従業員のアンケート調査結果を用いて、心理的安全性が高い企業であることを提示。田中氏によると、日本では、心理的安全性と企業価値を結びつけることは、まだまだ一般的ではない。対して、従業員の声を企業価値を考えるストーリーの一つとして開示している姿勢から、アストラゼネカが従業員主体の人的資本経営を行っている企業だと見ることができるという。


講演で田中氏は、「指標の開示は、テクニック論ではなく、経営のやり方やポリシーをステークホルダーに伝える、社会との約束です。今回の開示義務化が、世の中が変わるきっかけになればいいなと思っています」と思いを述べた。

パフォーマンス向上に寄与するタレントマネジメント、 データ活用で見える企業の未来 (山夲哲平氏:株式会社プラスアルファ・コンサルティング)


次に登壇したのは、株式会社プラスアルファ・コンサルティング、 タレントパレット事業部副事業部長の山夲哲平氏。プラスアルファ・コンサルティングはタレントマネジメントシステムである「タレントパレット」や、テキストマイニングツール「見える化エンジン」などを提供しているシステムベンダーだ。講演では、人的資本経営をすすめる上で、タレントマネジメントをどう活用するか等についてシステムの説明を交え紹介した。


山夲氏のタレントパレット事業部では、、多くの企業の人事担当者と直接対話し、人材データを用いた人材戦略を支援している。人事担当者から現状をヒアリングしていると、「優秀な社員の離職をどう防ぐか」「次世代の経営人材をどう育成するか」などの共通した課題が、たびたび寄せられるという。


こうした課題を解決する手法として、山夲氏の提供しているシステムでは、マーケティングの考え方をタレントマネジメントに取り込んでいるという。小売業界におけるマーケティングでは、例えばBtoCで優良顧客をどう育てるか、サービスをどうやったら辞めずに使い続けてもらえるか、日常的にデータを分析しながら顧客とコミュニケーションをとるが、こうした場合の「顧客」を「社員」に置き換え、人事データを活用するという考え方だ。優良顧客を作るようにデータに基づき人材を育成し、顧客の離脱を防ぐように社員の離職防止策を検討する…そうした発想のもと、顧客の要望に耳を傾け、システムを磨き上げているという。


一方講演では、そもそもタレントマネジメントとは何を指し、何をするためのものなのか、というテーマにも言及。タレントマネジメントは「人材情報を集めたデータベースと評価ができるシステム」と思われることが多いが、山夲氏はそれに留まらず、さらにすすんだ目的のためにあるものだと考えている。


「あくまでこれが正解、というものはありませんが、タレントマネジメントとは、会社全体のパフォーマンスを上げることに寄与するものだとわれわれは考えています。単にデータを一元化する、評価をシステム化する、というだけではなく、それぞれの企業が抱える課題や経営戦略に即して、データを活用しパフォーマンス向上につながる仕組みを作り上げることが重要です」と考えを述べた。


一つの例として紹介されたのが、「人材のスキル・経験の見える化」を実現するための取り組み。システムに落とし込む上で重要なのは、経営と現場の社員、両方の視点にたった見える化をすることだという。例えば経営や人事目線では、どんなスキルを持った人材がどこにどれぐらいいるのかを可視化することで、適正配置や、次世代育成に向けた戦略をたてることが可能になる。あわせて、社員目線では、例えば目指したいポジションで求められる要素と現在の自分とのギャップ、その差を埋めるために自分が何をすべきかを把握することで、自律的なキャリア形成ができるようになる。



経営層や人事担当者だけではなく、現場の社員にとっても役に立つ環境を整えることで、社員自らデータを入力するなど人材情報がより充実し、パフォーマンス向上につながるシステムを整えることができるという。


山夲氏は講演の締めくくりとして、「会社全体のパフォーマンスを上げるためには、人材開発やエンゲージメント向上、評価制度のブラッシュアップなどさまざまな要素がありますが、それぞれの要素を独立して見るのではなく、掛け合わせることで企業価値を上げることができる、そう考えています。それを下支えするために、システムの提供を通じて、お客様の要望に答えられるよう努力を続けていきます」と語った。

右肩上がりの成長と離職率半減の背景にある、 「人は最も大切な財産」とする経営理念 (森茂樹氏:株式会社スギ薬局)


三人目の登壇者として講演したのは、株式会社スギ薬局取締役管理本部長の森茂樹氏。


スギホールディングスの傘下であるスギ薬局は、全国に1565店舗、正社員・パートナー社員あわせて約3700名の、スギ薬局グループの中核を担う巨大なドラッグストアチェーンだ。


森氏は総合スーパーで人事や事業部門の管理職、グループ子会社の社長などを経て、2017年にスギ薬局に入社。管理本部長として人事・総務・経理を担当しながら、グループ会社2社の社長を兼任している。現職では、これまでの豊富な経験を活かし、「人は最も大切な財産」を根幹とした人事戦略を推進している。


右肩上がりの成長を続けるスギ薬局が中期経営計画で掲げるのは、「2026年度売上高1兆円」という目標だ。そこを目指すためのさまざまな経営戦略の中で、「人財・組織の強化」は重要な役割を担っているという。具体的には、「人は財産」の考え方を中心に、社員の働きがい・健康・安全・ダイバーシティ・コンプライアンス風土改革・人財確保・人財育成という6つのキーワードを挙げ、それぞれ施策を打ち出している。



講演では、そのひとつとして、「職場の悩み・何でも相談ダイヤル」が紹介された。このダイヤルはどんな小さなことでも社員が匿名で相談できる窓口だ。それまでハラスメントなどの通報を受け付ける「コンプライアンス110番」という名称だったダイヤルを、2021年にその役割含めて変更した。


このような窓口を設置した目的は、心理的安全性やエンゲージメントを向上させ、リテンション対策とするためだ。森氏によると、小売業の離職理由で最も多いのは職場の人間関係。一見ささいなことに見える現場一人一人の悩みを聞きとる必要性を感じ、コンプライアンスに限らずより広範囲な相談を受け付ける場として設置した。


窓口を設置するだけではなく、必要に応じて人事担当と営業担当の両サイドから丁寧に聞き取りをすること、配置転換や上司教育など対策を実施すること、解決の好事例を社員教育に反映させること等、受け付けた相談への対応も徹底している。その結果、ダイヤル設置前に比べて、相談件数は約2倍に増え、離職率も半減した。


スギ薬局では他にも社員の声を聴く施策として、経営トップを含む役員の全店舗巡回、約35000人の従業員を対象としたアンケート調査などを実施。聞き取った課題に一つ一つ丁寧に対応することにより、社員から「自分の意見が反映されている」「会社が良い方向に変わってきたと感じる」などの声が寄せられているという。


森氏は「これまで人事や総務、営業などさまざまな仕事を経験してきましたが、共通して感じたのは、やっぱり最後は人だということです。どんなに素晴らしい経営戦略をたて施策を打ち出したとしても、特に小売りやサービス業の場合、最後に具現化するのは現場の方たちです。店舗に立つ一人一人が、さあがんばろうとやる気になれる環境になるよう、人財戦略を構築し、事業の成長につなげていきたいと考えています」と、取り組みの背景にある思いを語った。

【ディスカッション】人的資本経営時代のリテール人材のあり方


講演会に続き、Next Retail Labのフェローらが参加しディスカッションが行われた。一部を抜粋して紹介する。


■ディスカッション参加フェロー

・一般社団法人社会的健康戦略研究所代表理事 浅野健一郎氏(ゲストフェロー)

・有限会社シンプル研究所代表取締役 坂野泰士氏

・有限会社スタイルビズ代表取締役 村山らむね氏

多忙な人事担当者が、いかにして人的資本経営推進に携わるか



藤元:森さん(スギ薬局)にお聞きしたいのですが、人事担当者はどこの企業でも今、大変忙しい部署だと思います。そうした中、全社員を対象にしたアンケートや店舗訪問などの施策を行い全ての問題に対応しているというお話がありましたが、そこまでできる理由というのはどこにあるのでしょうか。いわゆる人事DXなど、工夫して業務の効率化をすすめて時間を捻出できているのか、それとも、リソース確保は厳しいけれども、必要な戦略として、人手をかけてでもやると決めているのでしょうか。


森氏:後者ですね。DXも現在進行形ですすめていますが、そこまで劇的に結果を出せているという段階にはまだありません。しかしそうではあっても、現状の課題の重要度を考えたときに、社員の離職防止や人材確保については最優先で対応する必要があると判断し、人事部の体制も優先的に強化して施策をすすめています。


藤元:なるほど。山夲さん(プラスアルファ・コンサルティング)にお尋ねしますが、やはりそうした忙しい、やるべきことが山積しているという状況を考えると、タレントマネジメントについてもまずは業務の効率化、DXをしたいという企業からの要望は多いのでしょうか。


山夲氏:そうですね。業務効率化はゴールではなく、本来やりたいことはその先にあるのですが、まず手元の大変さ、業務をなんとかしないと次に手が回らないという状況は多くの企業が抱えている課題だと思います。ただ、例えば人的資本経営に関しても、やるんだという強い意思をトップが持っている場合は、指示を受けた現場も人を増やしてでも優先的に取り組もうという状況になるのではないでしょうか。そこの温度感は企業によってだいぶ差があるように感じています。


藤元:その点、スギ薬局さんはトップの強い意思があったという理解でよいでしょうか。


森氏:はい。当社は創業当時から人に対する強い想いを理念として持っている会社だったので、いろいろな人材戦略をすすめやすい環境にあると思います。

価値観が変化する中、人的資本経営に必要な対策は


坂野氏:コロナ移行、特に若年層の行動が大きく変わってきて、顧客の動きが見えづらくなっているという声をよく聞きます。どうやって顧客と関係を築いたらよいかわからなくなってきたというのが、どの小売業でも共通したテーマになっているんです。例えば今までやってきた顧客管理の仕組み、ポイントプログラムや会員制度に反応しない、でも店には来ている、というわからない人たちがいて、そのボリュームがどんどん増えていると。おそらく人的資本の問題も同じことが起きていて、リテンションや採用という問題は社員の考えや行動がくみ取れなくなってきていることが関係しているのではと思っています。そのあたりについて、実際に変化を感じることはありますか?


森氏:Z世代に関わらず、X世代、Y世代も含めておそらく価値観が変わりつつあり、社員の感情が読みにくくなっているというのが実感です。例えば当社では、会社を残念ながら退職された社員を対象に離職理由を調査しているのですが、35歳以下の若手層の離職理由として最も多かったのはキャリアに関するものでした。自分としては給与や休暇日数が理由なのかなと考えていたのですが、若手層が求めているものはそこではなかったんですね。


そうしたキャリアアップをしたいという社員の希望に応えるため、自ら目指すポジションに手を挙げられる社内公募制度など、施策に結びつけているところです。自分が若手だった時の記憶から「きっとこうだろう」と想像すると現状とずれが生じてしまう、経験だけでは追いつかないような変化を現場では感じています。


山夲氏:当社に寄せられるお客様の中でも、研修系のサービスをご利用になる企業が非常に増えました。大手企業だと、社内研修ではなくアカデミーのような形で社内に講師を立てて学べる環境を整えているところも多いですね。特に若い人たちの間ではキャリアアップしたい、スキルを身に着けたい、という意識が強くなり、企業も学べる環境は福利厚生の一環だという考えになりつつあるのではないでしょうか。


村山:人的資本経営については、まだまだ開示が始まったばかりで、お手本となる一部の企業以外は横並びのような状況ですが、これから企業それぞれが自社の色を出し、本当の意味での人的資本経営に取り組んでいくのだろうと思っています。田中さん(Unipos)は人的資本に関する第一人者とも言える知見をお持ちですが、今後について、どのように変わっていくとお考えでしょうか。


田中:私は来年が勝負だと思っています。各企業の有価証券報告書に目を通して感じたことは、かなり進歩している、ということです。いい取り組みが出れば出るほど、企業が学ぶ速度も加速度的に変化していると感じます。開示の義務化はひとつのきっかけにすぎませんが、このスピードで学習がすすめば、人的資本に対する考え方が本当に変わるのではないか、という期待がありますね。

経営戦略に人的資本経営を位置づけ、経営者と個人双方の視点を


浅野氏:内部労働市場を効率的に形成するためにタレントマネジメントを活用するというのは、みなさん共通して認識しているところだと思います。一方で、内部で育てるのではなく、優秀な人材をいかに外からとってくるか、という考え方もあります。今後日本が世界で勝っていくという視点に立った際に、リスキリングを含め内部人材を育てるところに注力するのか、それとも海外のようにジョブ型に移行して専門職がいろいろな企業を経験する形になるのか、どちらの方向にすすむんでいくとお考えでしょうか。


山夲氏:非常に難しい問題ですね。現状からお話しすると、すでに多くの社員を抱えている企業の場合、ジョブ型に興味を持っていたとしても、すぐに全て切り替えるのはそもそも現実的ではないかと思います。やってみたいけれどいきなりはそこにすすめない、そうした中で、間をとって社内公募を取り入れている企業がすごく増えているのを感じますね。ジョブディスクリプションとまではいかずとも、求めるスキルや経験を定義して、そこに見合う人材を募る社内公募は、いわば社内のジョブ型採用とも言えるかもしれません。


外から専門スキルを持った人材を採用できれば良いですが、どんどん労働人口が減る中で、それができる業界・企業ばかりではありません。必要な人材を社内で育成するというやり方も一定量は日本の中で残り続けるのではないかと、個人的には思っています。


浅野氏:現在増えている、いわゆる「社内のジョブ制度」のような形が過渡期なのか、それとも日本の企業にとっての最適解なのか、非常に難しいですね。ありがとうございます。


私は健康経営やウェルビーイングの普及に向けた活動をしており、その観点からもお伺いさせてください。健康経営やウェルビーイング経営は、経営戦略といかに結びつけるかがとても大切です。人的資本経営も、開示が必要だからやるというのではなく、経営戦略の中の重要な一つとして位置づけられ、その中身を開示するというのが本来の姿なのですが、なかなかその考えが浸透しないという問題があると思っています。数多くの企業を調査してきた田中さんにお聞きしたいのですが、経営戦略の中に人的資本経営をしっかりと位置づけて、本質的に取り組んでいる企業の割合はどのくらいあると感じていますか?


田中氏:だいたい10%弱ぐらいだと思います。しかし、さらにそこに健康経営を加えているところはかなり少ないんです。私はやるべきだと思っているのですが、まだまだ少数派ですね。


開示情報を見ていて、一つ良い事例だと感じたのは、精密機器の伝動ベルトや工場の搬送ベルトなどを作っている「三ツ星ベルト」さんの取り組みです。この企業は若者の採用が人手不足でなかなかすすまない中、高齢化する社内技術者の健康を重要なテーマとして掲げており、健康に関する指標を決めてそれぞれのスコアをしっかりと追っているんです。経営戦略と人的資本経営、そして健康経営がしっかりと連動している好例ですね。


これができている企業は本当に少ないと感じていますが、改めて日本の企業を見てみると、社内の高齢化、若手の採用難というのは、ほとんどの企業が同じ状況のはずです。


浅野氏:確かに、少子高齢化で定年引き上げや高齢者の再雇用などの必要性が言われていますが、その方たちの健康や戦力をどうするのか、という点についてはあまり言及されていないかもしれないですね。


森:健康経営については、当社でも企業の成長の原動力になるという位置づけでいろいろな施策をすすめていますが、執行する上で、どうやったら幹部、そして社内全体にその意識を浸透させていくことができるか、その点についてどうお考えですか。


浅野:確実にパラダイムが変わっているということを経営者、個人双方が認識する必要があると思います。少子高齢化が急速にすすみ、若い労働力がどんどん減る中、社会を維持させるためには、高齢者が働くという選択をせざるを得ない状況に突入しています。


経営者の視点で言うと、若手にいかに来てもらうかだけではなく、80歳の人にいかに働き続けてもらうかを考えなければなりません。そして準備するのはもう今しかないんです。


そして個人の立場から見ると、自分は何歳まで働くのかということを、改めて考えることが必要です。自分の親世代は60歳で定年を迎え悠々自適の老後を送っていたかもしれませんが、自分たちは80歳まで仕事を続けているかもしれません。80歳まで働くために何が必要なのか。自分のスキルや経験だけではなく、資本としての体をどうしないといけないのか。そうした問題の重要性に気が付いた方は、行動が変わってくるのではないでしょうか。


森氏:ありがとうございます。私個人としても大変響いたお話です。当社は比較的平均年齢が若く、幹部社員含め、高齢化などについてまだまだ深く考えていない面があると思います。社員に自分事として捉えてもらうよう、振り返りの時間などを設け、健康経営の意識浸透に向けて対策を練りたいと思います。

まとめ


まだまだ手探りですすめている企業も多い人的資本経営。しかし、少子高齢化の中、人的資本への投資が、企業の成長にとって重要な鍵となっていることは間違いない。特に深刻な人手不足という課題を抱える小売業にとっては、喫緊の課題とも言える。


各企業がどのように真の意味での人的資本経営を実現し、いかに企業の成長につなげていくのか━━、これからの取り組みが注目される。



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