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- 第48回Next Retail Labフォーラム開催レポート「偏愛主義が次なる小売を切り開く」
6月23日、第48回目になるNext Retail Labフォーラムが開催された。 今回はゲスト講師に齋藤 健一氏(株式会社ヘリテージ代表取締役社長)とNRLフェローでもある高橋 理人氏(株式会社HBIP代表取締役)をお招きし、「偏愛主義が次なる小売を切り開く」をテーマに、「ファンマーケティング」や「推し活」といった、消費者が愛情をもって商品やサービスに接する行動やその心理についてご講演いただいた。 1980年生。北海道出身。2005年よりリクルート入社。自動車部門のネット商品や買取、検査、保証、店舗など多くの新規事業を立ち上げる。2013年よりスマホ決済ベンチャーの事業推進責任者として日本のキャッシュレス決済の普及に尽力。2016年より事業開発専門会社を起業し、コンテンツのマネタイズモデルを作るべくアプリ・会員・ブロックチェーンなど複数企業の事業開発と事業再生を手がける。2018年より枻出版社から日本文化事業を事業譲受してディスカバー・ジャパン社を設立、代表に。2021年より同じくニッチジャンルのメディア事業を譲受、株式会社ヘリテージを設立、代表取締役を担う。 1982年にリクルート入社 勤続25年間で住宅(現・SUUMO)通算15年、95年設立のネット部署の責任者を6年、最後は自動車カンパニー長。2007年-2016年に楽天に在籍。EC担当常務執行役員として国内外のECモール事業、物流事業、直販事業、オークション事業などを担当。現在、LIFULL、Unipos、アディッシュの社外取締役および数多くの企業のアドバイザーを務める。 ■ホスト:菊原政信 フィルゲート株式会社 代表取締役(NRL理事長) ■進行・モデレーター:藤元 健太郎 D4DR株式会社 代表取締役(NRL常任理事) ■ディスカッション参加フェロー: ・中見 真也氏 神奈川大学経営学部国際経営学 准教授 ・逸見 光次郎氏 株式会社CaTラボ 代表取締役 ・石郷 学氏 株式会社team145 代表取締役 目次 1 未来の小売のヒントとなる「偏愛ビジネス」とは 2 偏愛の定義 3 なぜ偏愛ビジネスが小売にとって重要なのか 4 未来の小売に必要な5つのキーワード 4.1 商品に対する売り手の愛 4.2 買い物空間の居心地のよさ 4.3 カテゴリブランドの確立とファンコミュニティの形成 4.4 機能価値・短期価値ではなく、感情価値・生涯価値 4.5 中の人の様子を発信 5 まとめ 未来の小売のヒントとなる「偏愛ビジネス」とは 偏愛ビジネスとは、「参加・共感」でモノを売るビジネスのことである。 商品やサービスに対して、愛が深いコアなファンやオタクな人が商品を紹介することで、同じ価値観をもつファン層がコミュニティに参加し、共感を覚えることで、モノを売るつもりがなくても買ってくれるビジネスの形だ。 斎藤氏は、株式会社ディスカバー・ジャパンに在職時、100以上の日本の老舗企業の方と話していくなかで感じた、「モノ・ヒト・技術」が永く続くように大切にしたいという思いが、ヘリテージの価値観に反映されている。 大量生産・大量消費時代が終わり、新しいビジネスの形が模索されている中で、ヘリテージでは永く続くことに重点を置き、偏愛主義をテーマに事業を展開している。 偏愛の定義 ヘリテージにおける偏愛の定義は、「1つのモノを好きでひたすら買い続けること」としている。 好きがゆえに、対象商品の購入回数やアクション回数が、生涯購入回数や平均アクション回数を超えるような人たちを指す。 (齋藤氏資料) 実際にヘリテージのスタッフには、革ジャンや万年筆を40以上もっている人たちがいるという。このような偏愛をもっている人たちを「偏愛者」「○○沼」などと表現している。偏愛者であるスタッフが偏愛品(偏愛者が愛してやまない商品やサービス)の魅力を、イベントや出版、ライブコマースなど様々な媒体で発信することで、ニッチなニーズに応えたビジネスを成り立たせている。 なぜ偏愛ビジネスが小売にとって重要なのか 偏愛ビジネスが小売にとって重要な理由、それは「One to One」の接客に対応できるからである。 消費者の好みや欲求は多様化するなかで、ひとりひとりの状況などにあった対応が顧客満足度を高める要因となっている。商品を紹介する人がその商品の偏愛者であれば、お客様のレベルに合わせた最適な商品を紹介することができる。 逸見氏(フェロー):偏愛というと偏ったイメージを持たれることもあるが、実際はお客様によっておすすめや説明の仕方を変えていることがカギとなる。例えばカメラであれば、小さいお子さんを撮りたいという初心者のお客様には持ちやすさや操作の易しさをポイントに説明するが、マニアのお客様にはレンズの収差など専門的な説明を交える、といった柔軟な対応によって、ファンを増やし、育て、LTV(ライフタイムバリュー)を高めることができる。 このように、偏愛を小売ビジネスに取り入れることで、小売業界での優位性や差別化のポイントになると議論されていた。 未来の小売に必要な5つのキーワード ここからはヘリテージ社が偏愛ビジネスにおいて大事にしている点や議論から出てきた次世代の小売業に通ずる5つのキーワードを解説する。 1. 商品に対する売り手の愛 1つ目は、商品に対する売り手の愛が深いかどうかである。 商品に対する売り手の愛が深いと、モノを売らなくても売れるという不思議な現象が起こるという。 ヘリテージが行うライブコマースでは、売り手である偏愛者が商品のうんちくや雑談、自慢話などを語る。偏愛者が商品に対する愛を語れば語るほど、同じような価値観をもった視聴者にも愛が伝わり、偏愛者に対する共感や信頼が生まれる。 売り手が偏愛者だからこそ、買い手に起こる共感や信頼が消費者の購買欲求を高め、購買行動を促しているという。 2. 買い物空間の居心地のよさ 2つ目は、消費者にとって居心地のいい買い物空間を提供できているかどうかである。 ヘリテージでは、その場で商品を買ってくれる人も重要だが、それ以上にその場で商品を買わなかった人を重要視しているという。消費者が今日は買わないと判断しても、もう一度ここに来たい!と思わせるための楽しい空間を提供することに力を入れている。 このようにして偏愛者のファンを作ることはLTV(ライフタイムバリュー)を向上させるためにも有効になる。 3. カテゴリブランドの確立とファンコミュニティの形成 3つ目は、カテゴリでのブランドを確立することと同時に、ファンが気軽に参加できるコミュニティを形成することである。 企業ブランドと商品ブランドの間にある、カテゴリブランドでファンをつくる仕掛けができているかどうかが重要となる。小売業にとってカテゴリでブランドを確立させることは非常に難しく、企業ブランドからカテゴリブランドへ移行するか、商品ブランドからカテゴリブランドへ移行するかで、実際の小売業界は悩んでいる。そのなかでヘリテージの偏愛者ビジネスでは、「ヒト」をコンテンツとして確立させることで、カテゴリブランドの確立に成功しているという。 カテゴリでブランドを確立することで、偏愛品の横展開も可能であるという。 例えば、「革」というカテゴリが好きな革ジャン偏愛者に革のペンケースを紹介すると欲しくなり、購買行動を起こす。このように偏愛者であってもカテゴリにおける横展開まで考えていないことが多く、ユーザーの購入視野を広げるといったことも可能になる。 (齋藤氏資料) また、カテゴリブランドでファンをつくるためには、ファンの心理を理解するためにも気軽に参加できるコミュニティの場を提供することが重要になる。ライブコマースは、作り手・編集者・受け取り手の三者が接点をもつことが可能になり、作り手の気持ちなどが共有できる新しい手段となりうることも示唆された。 4. 機能価値・短期価値ではなく、感情価値・生涯価値 4つ目は、商品は感情価値・生涯価値を付加しているかどうかである。 ヘリテージでは、ピックアップとバリューアップを大事にしている。つまり、商品の機能価値ではなく、感情価値で売る。また、短期価値ではなく、生涯価値で売ることを念頭に置いている。 専門性の高い古品(永く残るもの)がヘリテージの取り扱う商品の強みだが、ここには、永く使えるものこそいい商品であるという考えが背景にある。だからこそ、商品を売る際も、5年後、10年後までの使用を見通して提案しているという。 (齋藤氏資料) 実際にバッグの販売ライブコマースを行った際に、「葬儀に飾るバッグ」というコンセプトで、自分の葬儀の際に飾るバッグは大切に取り扱ったバッグを飾りたいという新しい視点での売り方を提示した。これは、メーカーが考えていなかった新しい視点での商品の生涯価値を作り出すことも偏愛者が売り手であることによる独自の生涯価値の付け方といえるだろう。 またディスカッションでは、リペアエコノミーの可能性について議論になった。 藤元(モデレーター):リペアはヘリテージにとっても次のビジネスチャンスになるのではないか。持っているものをリペアできるとなれば、さらに深みにはまっていくファンも少なくないと考えられる。 齋藤氏:我々としては、より多くの選択肢を持ってほしいと考えている。愛着があるものは、新品を買ったほうが安くても直して長く使いたいという声も聞く。 5. 中の人の様子を発信 5つ目は、実際の制作過程など、中の人の様子を発信していることである。 偏愛者の独自の世界観は制作過程にも存在している。腱鞘炎になりながら、いただいた手紙すべてにお礼を送る人や、2週間かけて会員証について考え、作成していることも。偏愛者のこだわり抜く様子がコンテンツとして発信されることでファンが生まれる。 (齋藤氏資料) 実際に、ヘリテージでは指名制でコンテンツ作成の依頼が来ることが多いという。美容室でお気に入りの美容師を指名するように、人そのものがコンテンツとしての役割を担っている。 中見氏(フェロー):プライドがある人は信頼できる。人がコンテンツと言っても過言ではない。ブランドコミュニティを創って育てる上では、そういう人たちが中心となって発信することで、参加者もコメントしたくなり、活性化につながる。 まとめ ヘリテージ社の偏愛者ビジネスは一風変わったように見えるが、現在の小売業が10年後、20年後まで生き抜くための必要な要素が多く盛り込まれた内容であった。 ファンマーケティングや推し活ビジネスを小売業にうまく取り込むことによって、「参加・共感」できる小売が、新しい小売の形として拡大していくだろう。ビジネスにおいて、売り上げ、利益などの数値は重要であるが、売り手が商品を好きかどうか、買い手が参加・共感できたのかどうかを指標として、数値化していくことも今後は重要になってくるだろう。 ◆次回第49回Next Retail Labフォーラムご案内◆ https://www.nr-lab.net/forum-all/dai49kai-next-retail-lab-forum ◆新規会員募集中◆ https://www.nr-lab.net/enrollment 主催:Next Retail Lab 問い合わせ先 電話:03-6427-9470 e-mail:info@nrl-lab.net
- 第44回フォーラム開催レポート「老舗企業にこそ学ぶべきイノベーション」
Retail Labの第44回目のフォーラムが1月27日に開催された。 今回はゲスト講師として株式会社山本海苔店 代表取締役社長の山本 貴大 氏をお招きした。NRLフォーラムのご登壇は3度目となる山本氏だが、2021年7月に現職に就任され、伝統ある老舗企業を牽引していく立場としての挑戦や展望について伺うことができた。 ■ホスト:菊原政信 フィルゲート株式会社 代表取締役(NRL理事長) ■進行・モデレーター:藤元 健太郎 D4DR株式会社 代表取締役(NRL常任理事) ■ディスカッション参加フェロー: 坂野 泰士 氏 有限会社シンプル研究所 代表取締役 逸見 光次郎 氏 株式会社CaTラボ 代表取締役 川添 隆 氏 株式会社ビジョナリーホールディングス 取締役 CDO 兼 CIO 革新によって繋いできた伝統 創業から170余年の歴史を持つ山本海苔店は、経営者の代替わりを重ねながら、時代に合わせた革新的な展開によって、海苔業界の発展に貢献してきた。その一方で、一貫して香りが豊かな高品質の海苔にこだわっており、長い歴史の中で多くのファンを獲得していることもまた事実である。そして社会環境の変化が著しい今、さらに新たな革新によって、山本海苔店の伝統が次の時代に受け継がれようとしている。 海苔業界の危機 しかし、海苔産業の中でも特に高品質な海苔が取り扱われる贈答用海苔の市場は顕著に縮小を続けている。物流技術の発達や価値観の変化が主な理由と考えられるが、市場の縮小は一次生産者にも影響が及び、最終的に高級海苔が姿を消してしまう懸念さえある。 新たな挑戦に向けて そんな海苔業界の危機に対抗するべく、山本海苔店も21世紀に入ってから販路拡大や海外展開といった施策に挑戦している。それでも、これまでの百貨店を中心とした営業基盤が揺らぐという危機感が社員の中で浸透せず、社内が分断されつつあったそうだ。そこで山本氏は、まず経営の教科書的な基礎から取り組みを始めたのだという。 山本海苔店には、代々伝わる行動原理「良品廉価」「品質第一」があった。山本氏はこれをもとに、社内の意識を統一するための「共通の理念」を社員と創り出し、それに基づいて営業戦略を考えるというフローを実施。その結果、「よりおいしい海苔を、より多くのお客様に楽しんでいただく」という共通の目的に向けた商品・売り場展開が検討されるようになったということである。また、商品の原価などの情報を公開し、社員一人一人が業務を自分ごととして捉えられる仕組みづくりも進めてきたことで、社内の意識は徐々に揃いつつあると山本氏は語る。 その内情に関しては、ディスカッションでも話題に上がった。以下に一部を抜粋する。 逸見氏(フェロー):原価が公開されたことで、社員も売上しか見ないのではなく、利益を意識するようになったことは山本海苔店にとっても大きかったのではないか。 山本氏:これまでの時代は売上が上がれば利益がついてきていたが、今はそうではない。社内での情報公開はメリットのほうが大きいと考えて実施している。 逸見氏(フェロー):危機感の共有や、信頼関係構築にもつながる。 藤元(モデレーター):見えることによって改善案なども社員から出やすくなるだろう。 川添氏(フェロー):原価などの情報公開に際しての拒否感は他の業界でも大きい。変革を起こすには、少しずつ味方を増やしていくしかないと感じている。 山本氏:味方を増やせたのは、昔からの百貨店ビジネスの中にいなかったためだと思う。海外事業やECなどの新しい部署でともに経験を積んだ、お互いに信頼関係のある人が何人かいたおかげで、「うねり」を起こすことができた。 市場の縮小による産業全体の品質・供給の維持困難化は他の業界でも多く見られる課題であるが、長期的に社会の変化を俯瞰することで、別の提案によって新たな市場を創出するなど道を切り開く余地はまだある。長年リーディングカンパニーとして様々な革新を重ねてきた山本海苔店で、さらに先の未来まで見据えた挑戦のために社内の基盤を整えてきた新社長。その次の一手に注目と期待が集まっている。 山本海苔店の次のアプローチとは これからの展開について、ディスカッションパートではフェローも交えて議論を行った。他の業界にも通じるマーケティング的アプローチや新たなサービスコンセプトのヒントが含まれるコメントの一部を紹介する。 山本氏:今後はもっと海苔に関する体験を含めて提供していきたい。海苔の「一番美味しい食べ方」を提案するような飲食店も構想している。 逸見氏(フェロー):海苔業界を挙げて、「海苔をこう食べてほしい」という海苔自体のブランディングができるとよい。海苔に対する好みが様々な以上、それを逆手に取って「このシーンではこの海苔」といったPRをするのがよいかもしれない。基準が明確化されてそれぞれの楽しみ方が確立されれば、お客様もいろんなシーンで選ぶことを楽しめるし、語りたくなる。 坂野氏(フェロー):様々な海苔を食べ比べて体験として楽しめるコンセプトは、昨今他の食材でも挑戦されており、顧客体験価値が高いのではないかと感じる。 ディスカッションの後半は各メンバーの知見を活かしたブレストとなったが、視聴者の方にもイノベーションの種を持ち帰っていただけたのであれば幸いである。 老舗企業の伝統とはイノベーションの連続によって成り立っており、そのイノベーションのためには、都度改めて社内で意識を共有することが必要になる。山本氏の講演とディスカッションを通して、これまで積み重ねてきた歴史を踏まえつつ未来のビジョンを持つことで、業界の発展にもつながるということが再認識された回となった。
- 第45回Next Retail Labフォーラム開催レポート「毎月200人のZ世代と接してわかったZ世代の消費価値観と企業の在り方」
3月2日、第45回目になるNext Retail Labフォーラムが開催された。 ゲスト講師に田辺 牧子 氏(株式会社SHIBUYA109エンタテイメント マーケティング戦略事業部 ソリューション戦略部 SHIBUYA109 lab. コンサルタント)をお招きし、Z世代の消費実態や価値観を紐解いた。 ■ホスト:菊原政信 フィルゲート株式会社 代表取締役(NRL理事長) ■進行・モデレーター:藤元 健太郎 D4DR株式会社 代表取締役(NRL常任理事) ■ディスカッション参加フェロー: 川添 隆 氏 株式会社ビジョナリーホールディングス 取締役 CDO 兼 CIO 唐笠 亮 氏 株式会社パルコデジタルマーケティング 部長 松本 阿礼 氏 株式会社ジェイアール東日本企画 駅消費研究センター 研究員 五月女 由紀子 氏 杉野服飾大学 教授 ■ゲスト講師 田辺 牧子 氏 株式会社SHIBUYA109エンタテイメント マーケティング戦略事業部 ソリューション戦略部 SHIBUYA109 lab. コンサルタント 総合マーケティング会社にて、主に化粧品や日用品メーカー等へ、商品企画からプロモーションのための調査を中心としたマーケティングサポートを実施。 その後、化粧品会社にて商品企画・新規事業を担当し、株式会社SHIBUYA109エンタテイメントに入社。 SHIBUYA109 lab.では毎月200人のaround 20(15歳~24 歳の男女)と接しながら、SHIBUYA109のマーケティングから外部企業のマーケティング支援までを行う。 SHIBUYA109 lab.ではZ世代を15-24歳と定義し、来館者をはじめとして毎月約200人のターゲットと接点を持ち、独自のネットワークを築いて「生の声」を集めている。今回のレポートでは、そうして得られたデータを元に彼らの価値観や購買行動に見られる特徴を捉える田辺氏の講演を中心に、イベントの様子をご紹介したい。 消費価値観を示す4つのキーワード 物心ついたときからスマホやSNSに親しんでいるデジタルネイティブであるZ世代の消費に対する価値観とは、どのように特徴づけられるものか。 田辺氏はこれまでの経験や考察を踏まえ、その消費スタイルを4つのキーワードに落とし込んで分析している。それは、「①体験消費」「②間違えたくない消費」「③メリハリ消費」「④応援消費」だ。 「①体験消費」の起点はSNSにあり、「SNSにその体験を投稿して共感が得られること」が購買行動の動機として重要になる。 消費は体験そのものから逆算して、「思い描く体験をするために何が必要か」に基づいて意思決定をする。例えば空間全体の演出を重視し、背景となる場所や用いるアイテム、その場に合わせたファッションなど、隅々までこだわるための消費が中心である。そうして得られた体験をSNSに投稿すると誰かの共感を呼び、さらに同様の消費を生み出すというサイクルができる。 上記のようなサイクルは、「②間違えたくない消費」にもつながる。SNSで気になる体験を発見すると、同様の体験を得るための事前準備として情報収集をしっかりと行う。その際にTikTok・Instagram・YouTube・Twitterなど、多様なSNSを「トレンド把握」「カフェ・スポット探し」「HOW TO」「ヲタ活」などの目的に合わせて使い分ける合理性も、Z世代の特徴である。コロナ禍で外出一回あたりの価値が上昇していることも、そうした傾向に拍車をかけているようだ。 パーソナライズもポイントの一つである。診断などを活用して、買い物の精度を上げることに妥協しない。 ディスカッションでもこのトピックへの言及があったため、一部を抜粋する。 唐笠氏(フェロー):SNSで発信している人のことを信頼する基準はどのようなものか? 田辺氏:様々なインフルエンサーがいるが、消費行動に繋がる点として重要なのは商品説明が分かりやすいことと、良いところも悪いところもきちんと紹介していることが説得力に繋がる。インフルエンサー自身の視点で語ることで、Z世代にも親近感がわき伝わりやすい。インフルエンサーマーケティングについても、普段その人が紹介している分野などとのマッチングに違和感がなければ、フォロワーにも受け入れられやすい。 川添氏(フェロー):Z世代は広告をどう捉えているか。拒否反応は強い? 田辺氏:他の世代に比べると、広告そのものに拒否反応が強いわけではない。ただ、自分に必要な情報かどうかという中身が重要。 残りのキーワード「③メリハリ消費」「④応援消費」の実態は、消費に際してZ世代がかける熱量と深く関係している。田辺氏が示すデータによると、Z世代の4人中3人がアイドルやファッション、漫画など何かしらの「ヲタ」を自認し、自分が価値を感じたものに集中的に出費する傾向も強いという。 田辺氏はそうした「ヲタ活」を支える熱量の構成要素を、次のように分析する。世界観やストーリーへの共感、「推し」の親近感、応援することで「推し」が成長するというモチベーション、充実感(心のゆとり)、自分らしさを出すことができるアレンジの余白、「推し」と共創する楽しさ。それらが様々な消費を生み、拡散に貢献しているとのこと。つまり消費への熱量の構成要素を取り入れることが、Z世代へのアプローチにつながるということでもある。 Z世代へのアプローチに際して意識するべきこと 田辺氏は、Z世代に対するアプローチのポイントを3つ挙げた。 1. Z世代と同じ目線を持つ:できるだけ自社でターゲットとの接点を持ち、ネットワークを築いて、習慣的にコミュニケーションを取る 2. 自社の商材以外のカテゴリについても把握:自社の商品やサービスを利用している時以外にどのようにお金と時間を使っているか、普段の生活実態について理解を深めることが重要 3. Z世代の世界に没入・参加する:一方的な接点ではなく、企業側からZ世代の世界に参加し、企業の世界観を一緒に表現していく このポイントはそのまま施策の順番としても適用できそうだと筆者は想像した。最初に顧客にコンタクトを取り、双方向的なコミュニケーションの中で生活の全体像を掴み、そこでヒントを得て世界観の共創につなげるというストーリーである。 田辺氏は、ターゲットと継続的にコミュニケーションをとることで、顧客層に対する理解が深まるだけでなく、企業やブランドとして信頼関係も構築し、将来にわたってLTVを向上することにもなると指摘した。 オムニチャネルと二次流通への意識 デジタルネイティブであるZ世代の多くは、実店舗とECを、用途とそれぞれのメリットを照らし合わせて利用している。購買行動におけるオムニチャネル意識については、本イベントにご出席いただいた杉野服飾大学の五月女氏によるショートプレゼンで、調査・分析の発表があった。 Z世代の多くは、そもそも購買行動に至る前の情報収集から、リアルとデジタルをシームレスに行き来している。そうして情報収集に時間をかけ、比較検討を慎重に行った上で購買行動に至る。もはやリアルとデジタルの境目が認識されることすらなく、デジタルも含めてすべてがリアルという認識に変わっているとも言えるだろう。 さらに、二次流通についてもディスカッションで話題となった。 唐笠氏(フェロー):事業者側の立場から、リユースなどに関する意識も気になっている。フリマアプリの普及は、購買行動にどのような影響があるか? 田辺氏:多少高くても「(自分に合わなければ)フリマアプリで売ればよい」と考えて買うということが多く起こっている。そもそもモノを捨てること自体にも罪悪感があるように見受けられる。 本イベントにはZ世代である杉野服飾大学の学生の方にも参加いただいたが、フリマアプリの代表であるメルカリについては 「購買時に実物が見られないケースでは、特に(売ることを)意識している」 「売るよりも買うことが多い。興味がない分野への出費は抑えたいので、よく利用している」 という意見が聞かれた。個人の関心のある分野や商品の性質によって使い方は分かれるが、いずれの場合でも日常的に使うサービスとしての存在感は大きいようだ。 「超Z世代マーケティングサービス」のご案内 Next Retail Labは現在、青山学院ヒューマンイノベーションコンサルティング(青山学院大学経営学部経営学科玉木ゼミ)、杉野服飾大学ファッション・ビジネス・流通イノベーションコース五月女ゼミとそれぞれ提携し、Z世代の声を集め、ビジネス研究に活かす取り組みを進めている。ヒアリングなどの調査だけでなく、「未来コンセプトペディア」を活用したワークショップ、Z世代が参画する商品開発企画など、未来に向けたビジネスの共創にもつながるアプローチである。 先日は杉野服飾大学の五月女教授と学生の皆様にご協力いただき、アンケートとSNSを組み合わせたZ世代の消費傾向の分析を行った。(参考:D4DR社「現役服飾大学生39名の傾向から、Z世代の消費行動とインスタ利用のマーケティングを読み解く」) 彼らの消費・購買行動だけでなく、アカウントによってパーソナリティを使い分ける様子も如実に現れた結果となっている。詳しくは上記の記事を参照されたい。 田辺氏はディスカッションの中で、Z世代がこれから消費を担う中心になっていくことを踏まえ、今はそのLTVを高めるためにアプローチする段階にあると強調した。 将来的にライフステージによる消費傾向の変化や、同じZ世代でも前半と後半で今後大きな差が現れる可能性もある。継続的に関係構築しながら共創につなげていくことはもちろん、さらに細分化した分析も必要になることを念頭に置く必要があるだろう。次世代の小売流通を専門とするNext Retail Labとしても、Z世代を研究するだけでなく、ターゲットの視点に立ち、長期にわたって共感してもらえる仕組みやサービスを追求していかなければならない。 主催:Next Retail Lab(ネクストリテールラボ) HP:https://www.nr-lab.net 問い合わせ先 https://www.nr-lab.net/contact 電話:03-6427-9470
- 第47回Next Retail Labフォーラム開催レポート「b8taが日本に持ち込んだRaaSは定着していくのか?」
5月26日、第47回目になるNext Retail Labフォーラムが開催された。 今回はゲスト講師に北川卓司 氏(ベータ・ジャパン株式会社 CEO)をお招きし、「b8taが日本に持ち込んだRaaSは定着していくのか?」をテーマにご講演いただいた 2005年に独立系PR会社に入社、その後外資系IRコンサルティング会社、ウィーン(オーストリア)に本社を構えるロモグラフィー日本支社CEO(最高経営責任者)を経て、フランスEMLYON経営大学院でMBAを取得。2015年、ダイソン世界初の旗艦店「Dyson Demo表参道」をオープン、東京統括部長を歴任。 2019年末よりb8ta Japanに参画し、日本事業立ち上げに従事。 ■ホスト:菊原政信 フィルゲート株式会社 代表取締役(NRL理事長) ■進行・モデレーター:藤元 健太郎 D4DR株式会社 代表取締役(NRL常任理事) ■ディスカッション参加フェロー: ・中見 真也氏 神奈川大学経営学部国際経営学科 准教授 ・比企 宏之氏 LINE Corporation Technical Evangelism Team マネージャー ・石郷学氏 株式会社team145 代表取締役 ・樋口 進氏 マーケティングシステム株式会社 DX推進コンサルタント 1 b8taが生まれた理由 2 RaaSとは 3 「売らない店」の増加 4 日本にはRasSが定着するか b8taが生まれた理由 b8taのミッションは、リテールを通じて人々に新たな発見をもたらすというものだ。小売店での販売を主目的にしているのではなく、体験・発見を生活者に楽しんでもらうことを目指している。 b8taは2015年にシリコンバレーで創業した。一号店は、カリフォルニア州のパロアルトという場所でappleストアやスタンフォード大学が近くにある。 創業者は4名いて、そのうち3名はネストの出身だ。ネストは、グーグルに買収されたスマートホームのデバイスの会社である。中でもCEOを務めていたヴィブ・ノービー氏はエンジニアの出身で、ネストのデバイスを製造していた。当時は、スマートホームがまだ新しいコンセプトで、実際にデバイスをオンラインに繋げて初めて良さが分かるプロダクトだった。商品が家電量販店の棚に箱に入ったまま並べられているのを見たノービー氏は店頭でのデモを打診したが、まだ販売の実績もないような商品を箱から開けて試してもらう場所-つまり、店頭の一番いい場所である-に置くことはできないと断られたそうだ。この体験を通して、ノービー氏は同じ課題を持っているスタートアップが多くあるはずだと考えた。そして、スタートアップの販路はオンラインが主流であった2015年、逆行するかたちでオフラインの体験型店舗を開店したのが始まりである。 アメリカで創業したb8taが、日本に参入した際に留意した点も議論になった。 比企氏 現在の体験型店舗というスタイルは元からあったのか、北川さん独自でやってきたのか? 北川氏 什器や内装はアメリカから輸送してきたが、オペレーション面はローカライズしている。アメリカでは気になるプロダクトがあれば店員に話しかけるのが一般的だが、日本で同じ接客方針を採用すると、出会いがないまま終わってしまう。より良い体験、記憶に残る体験を提供するにはスタッフからも話しかけ、一緒に体験する仕組みを作る必要がある。 RaaSとは b8taのビジネスモデルはRaaSと言われる。小売業よりも、決まった区画に出店してもらう不動産モデルが近い。 店内はいくつかの区画に分かれており、各区画を月額で貸し出すシステムだ。出品するブランドは商品とその情報を送る必要がある。 出典:北川氏資料 これに関連して、ディスカッションでも出品に関して話題が出た。 中見氏 b8taのコンセプトと、セレクトショップとの違いは何か? 北川氏 セレクトショップはバイヤーがいて、目利きで集めたものを生活者に楽しんでもらうお店。b8taはマーケティングのプラットフォームとして使ってもらいたいと考えている。スタートアップだとオンラインの出品は手軽だが、オフラインの出品はまだまだ難しい。オフラインでの接点が新宿、有楽町、渋谷、越谷レイクタウンに持てるのは良いプラットフォームだと思う。 オープンした当初は、出品している会社のブランドマネージャーやCEOが直接b8taスタッフ全員に商品の説明をしていた。しかし店舗とスタッフが増えた今は、体制を変更している。トレーニング担当者を決め、全ブランドのトレーニングを受けてもらう。その後、トレーニング担当者がb8taの社内システムに商品の情報をアップロードする。その中には動画やクイズ、出品会社の背景を入れており、b8taテスター(店舗スタッフ)はそれらを通して学んでいく方式だ。各店のb8taテスターがどこまで学んだかもGeneral Manager(ゼネラルマネージャー)が確認し、進捗状況に応じてスタッフを管理できるようになっている。 b8taは販売を主目的にしていないが、商品の在庫を店舗にも置いて販売自体は行っている。北川氏は「ご来店いただくお客様にベストなオファーというものを提供したいから、すぐに購入したいとおっしゃるお客様の声にもお応えしたい」と話した。 また、b8taテスターは「購入する/しない」「どこに興味を持ったか」など会話を通じて定性的なフィードバックを集めている。同時に店内の天井にある複数のカメラで、来店者の性別・年齢、どのような動きをするかという定量的なデータを取得している。このようなデータを一元で管理することができるのがb8taの強みだ。定量的なデータ、定性的なデータ、販売データの3つがb8taで集められるデータになる。 出品ブランドはこの3つのデータをマーケティングのアクティビティに活かすことが可能だ。 出典:北川氏資料 一方で、定量的なデータはb8taの店舗の内装にも活かされている。来店者の店内での移動情報をもとに、どこに何を置くか、回遊率を上げられるかを試行錯誤している。一人でも多くの人に色々なものを体験してもらうため、特定の場所に人気の商品が偏ることがないようにしている。 「売らない店」の増加 販売を主目的としない店舗は増加してきている。今やb8taに出資しているマルイグループだけでなく、大丸、そごう・西武、高島屋などが続々と「売らない店」をオープンしている。「売らない店」というカテゴリーが認知され同じような店舗が増えたのは、b8taのモデルが上手くいっていると見られていることの証左ではないかと、北川氏は手応えを感じているようだ。 「売らない店」に注目が集まっている理由には、3つポイントがあると北川氏は分析する。1つ目は、実店舗の存在価値である。コロナ禍の前から問われてきたが、さらにその流れが加速している。ECでの売上が上がっていく中で店舗の存在意義を関係者は考えてきたが、そこでb8taのモデルが注目を集めた。 2つ目は、従来のモデルからの転換を迫られつつある百貨店の新たな収益モデル・商業施設の中のコンテンツとして認識さたことだ。 そして3つ目は行動分析・店内で起きていることの可視化である。北川氏はかつて家電ブランドに在籍していたそうだが、家電量販店の店内で起きていることがブランド側には不明瞭であることを課題に感じたという。このような課題に対して、b8taが店内の行動を可視化できることは大きい。 日本にはRaaSが定着するか 北川氏は、RaaSは日本で定着すると考えている。その理由は2つある。 1つはオンラインとオフラインの融合が進むと、b8taのようなモデルが浸透する可能性が高いことだ。ただ、北川氏はRaaSもカテゴリーによって細分化するのではないかと分析している。例えばb8taのように体験と発見に重きを置くと、雑多なものを並べるかたちになる。しかし多種多様なプロダクトを置いている店舗に対して、来店者に「○○の店だ」という認識を持ってもらうことはできない。同じ体験型店舗でも、アパレルやコスメなど、カテゴリーを限定する方が店舗と顧客の双方にとってメリットがあるため、今後増えていくと北川氏は予測する。 2つ目の理由は、個人情報と取得データの紐付けだ。ただし、これはRaaSが定着するための次のチャレンジでもある。 店内でのデータは取れるが、それをどう使えるかが新たな問いになっている。個人情報の取り扱いには慎重でなければならない中で、どのようにしてオンラインとオフラインを紐づけていくのかが重要である。つまり、会員の来店時店舗に、予めオンラインで獲得していた情報とどのように紐づけて、個人に合ったサービスを提供するかということだ。 例えば、何回目の来店か、前回購入した商品は何かなどが分かれば、より深い体験を提供できるだろう。そのようにサービスをブラッシュアップできれば、b8taとしても、また全体としても、RaaSは定着するであろうと北川氏は話す。 北川氏も、まだ知らないものをたまたま見て興味を持ってもらうためにはどうすればよいか、どのような体験を提供できるか、日々新しい訴求方法を探っているそうだ。 コロナ禍によってオンラインでの買い物をする人は著しく増えたが、2年経ち、街の人出は戻ってきたようにも感じられる。実店舗での買い物も今後また増えていくだろう。手にとって体験することで記憶に残り、オンライン上で商品を見るよりも購入に至る可能性が上がるのではないだろうか。顧客にとっても実店舗での買い物は、「イメージと違った」という失敗を避けやすいというメリットがある。これからの実店舗の役割は、販売そのものではなく、b8taのような出会い・体験・実感にますます重点が置かれることだろう。 主催:Next Retail Lab 問い合わせ先 電話:03-6427-9470 e-mail:info@nrl-lab.net
- 第46回Next Retail Labフォーラム開催レポート「三越伊勢丹のDX戦略と具体的取り組み」
4月28日、第46回目になるNext Retail Labフォーラムが開催された。 今回はゲスト講師に北川竜也 氏(株式会社三越伊勢丹営業本部オンラインストアグループ長)をお招きし、「三越伊勢丹のDX戦略と具体的取り組み」をテーマにご講演いただいた。 北川竜也 氏 大学卒業後、国連の活動を支援するNGOで国際法廷の設立等のプロジェクトにアシスタントとして従事。 日本帰国後、企業風土改革を行う株式会社スコラ・コンサルトにて、プロセスデザイナーとして大企業を中心とする組織活性化に携わった後、創業まもないクオンタムリープ株式会社に参画。 大企業の新事業創出支援やベンチャー企業支援の場作り等の事業を担当。 クオンタムリープ株式会社を退社後、アレックス株式会社の創業に参画。 会社の運営と合わせ、日本のハイクオリティな商品を世界に向けて紹介、販売するクロスボーダーEコマース事業の立ち上げ、運営を行う。 その後、2013年に三越伊勢丹に入社。入社後は、WEB企画担当、特命担当秘書、デジタル化推進担当、 新規事業の統括・企画・開発・管理を歴任。 現在はMIオンラインを中心とするEC全般の運営を担当。 ■ホスト:菊原政信 フィルゲート株式会社 代表取締役(NRL理事長) ■進行・モデレーター:藤元 健太郎 D4DR株式会社 代表取締役(NRL常任理事) ■ディスカッション参加フェロー: 中見 真也氏 神奈川大学経営学部国際経営学科 准教授 川連 一豊氏 JECCICAジャパンEコマースコンサルタント協会 代表理事 村山 らむね氏 有限会社スタイルビズ 代表取締役 樋口 進氏 マーケティングシステム株式会社 DX推進コンサルタント 1コロナ禍の環境の変化 2 三越伊勢丹のDX戦略の考え方 3百貨店事業における取り組み 4 DXを支える体制 5百貨店ならではの付加価値の追求 コロナ禍の環境の変化 2020年度は新型コロナウイルスの流行で三越伊勢丹は大変な打撃を受けた。2020年最初に店舗を2ヶ月間休業していたため来店生活者数が減少し、店舗が休業している間はオンラインショッピングで対応したものの、生活者当時は店頭の商品をECの倉庫に移すフローがなく機会損失も起こしており、非常に苦しい状況だった。再開後も緊急事態宣言などの発令が相次ぎ、厳しい状況が続いた。 しかしECの売上は2019年度の200億円から2020年度には315億円へと拡大しており、アプリのダウンロード数も伸びている。外食や旅行に行けない状況が続き、生活者がエンターテイメント性の高い娯楽に消費できない分、ショッピングが非日常の役割を持ち、かつ消費するならより良いものを買いたいという生活者のニーズが売上を伸ばしていると北川氏は分析している。将来に向けてデジタルでの接点が増え、ビジネス上さらに重要なインフラになると認識しているとのこと。 出典:北川氏資料 藤元:顧客データの量が膨大になりやすく管理が難しい業界だと思うが、そのマネジメントはどう考えている? 藤元:顧客データの量が膨大になりやすく管理が難しい業界だと思うが、そのマネジメントはどう考えている? 北川氏:データを何に使うかを定義する重要性が増している。例えば外商のニーズに対して、担当者が一人で対応するよりも、得意不得意に応じて、様々な担当者の力をクラウド的に共有できたほうがよい。お客様の幅広いニーズにお応えする為、個人情報に紐づくデータに注意しながら、うまくデータを活用していきたい。 この2年間で分かったことを一言でまとめると「本質は変わらないが、常識や習慣はきっかけで簡単に変わる」ことだという。生活者がハレの日(より美味しいものが食べたい、あるいは大切な人と大切な時間を過ごしたいなど)を求める本質は変わらない。ただ、例えば必要なものがあれば店頭に行くという習慣も、外出を控えてECを利用するという習慣に簡単に入れ替わる。その変化のスピードは、予想している範囲以上に早いと北川氏は話す。 三越伊勢丹のDX戦略の考え方 三越伊勢丹は、DXをCX(コーポレートトランスフォーメション)と捉えている。三越伊勢丹が築き上げた価値をベースに市場の普遍的なニーズをとらえ、それらを商品・サービスとして生活者に提供するための仕組みを作り、仕組みを支えるビジネスモデルや仕事のやり方を変化させ続けることとしている。デジタルツールの導入にとどまらない、ビジネスに関わる全体を巻き込んで起こす変化である。 その上で三越伊勢丹のDX戦略の3つのポイントを挙げている。 一つは自社の業態自社の特性を改めて明文化すること。二つ目は自社の特性・強みをベースにして顧客への提供価値を再定義すること。そして三つ目は、価値提供を成り立たせる抜本的な仕事のやり方を変更すること。これら三つのポイントによって、得意領域である店舗、人、商品で圧倒的にレバレッジを効かせられるデジタルサービスを提供し、リアルでもオンラインでも同じように顧客の期待に応えられる状態にするためにDXに取り組んでいる。やるべきことはたくさんあるが、その中で優先順位をつける際に三越伊勢丹の強みに依拠するべく、議論を重ねて施策に落とし込んでいると北川氏は説明する。 百貨店事業における取り組み 生活者のニーズに応えていくために、三越伊勢丹は前述のように現在大きく改革を行っている。講演では、百貨店事業における取り組みと新しい顧客体験を提供する取り組みの二つを紹介していただいた。 百貨店事業での取り組みの一つがECサイトの統合・三越伊勢丹アプリのリニューアルだ。 三越と伊勢丹が会社を合併した際に「Mオンライン」「Iオンライン」と別々のECサイトを持っていた。これらの統合によって、伊勢丹の商品提案力と三越のおもてなしの融合がオンライン上でも可能になった。 出典:北川氏資料 新しい顧客体験を提供する取り組みにはメタバース「REV WORLDS(レヴワールズ)」もある。これは2021年の3月にローンチした仮想世界における新たなビジネスだ。 VRを活用したスマートフォン向けアプリで新宿東口の街の一部エリアと伊勢丹新宿店を再現しており、アバターを操作しながら会話を楽しんだり、バーチャル伊勢丹新宿店内で商品を購入したりすることが可能だ。直近では仮想世界の中に作っている建物の空間を使って、ファッションショーを行った。 出典:北川氏資料 DXを支える体制 社内体制の改革もDXには欠かせない。三越伊勢丹では多くの事業を展開しているため、開発にスクラム体制を導入している。新しい買い物体験の共創を目的とするアイムデジタルラボと、システム子会社や本社の情報システム部門、営業現場、事業運営チームなどが一体のチームとなって開発を進めている。 出典:北川氏資料 また、スピード感を持って顧客体験を向上するために「超高速PDCA」、つまり商品担当と営業担当など現場メンバーがビジネス課題・顧客課題を集め、EC運営チームとシステムチームが連携して即時アクションできる体制も構築している。 百貨店ならではの付加価値の追求 北川氏はディスカッションの中で、百貨店の特性・強みを活かして変化していく必要があると話し、その例としてサロン・デュ・ショコラを挙げた。サロン・デュ・ショコラで購入されるチョコレートは食べるためだけではなく、多くのチョコレートファン同士のコミュニケーションツールにもなっており、チョコレートファンのコミュニティは広く、そして深い。 村山氏:百貨店はその業態上、40代以上の世代にフィットしているため、若年層に当事者意識を持ってもらうのは難しいと感じている。 北川氏:確かに10~20代をターゲットにした施策は取っていないが、年代で区切っているわけではなく、上質な商品や安心感などの体験価値を重視していることが理由。年代を問わずに、例えば最近の例ではサウナやキャンプといったファン層が幅広いゾーンをしっかり捉えようとしている。 今回の講演で、北川氏は自社の強みを知りどう活かしていくかがDXの根底にあることを強調した。定石通りにデジタルツールを導入するだけではなく、自社の持つ強みを活かしながら、足りていない点を補い、より良くするためにデジタルを活用していく必要があると締めくくった。 ディスカッションでは他にも、SNSにおけるエンゲージメントの重要性やエッジの立った人財活用についても話が広がった。 百貨店にしか提供できない付加価値も「本質は変わらないが、常識や習慣はきっかけで変わる」の例に漏れず、逆に捉えれば時代によって手法やツールが変わっても本質は変わらないということでもある。リアルとバーチャルの融合が進む最中にある今、いかに本質を見て戦略を検討できるかということがあらゆる業界が問われている。 主催:Next Retail Lab 問い合わせ先 電話:03-6427-9470 e-mail:info@nrl-lab.net
- 第34回フォーラム開催レポート「売らない店舗の戦略」ニューノーマル時代の食品スーパーのDX戦略―スーパーアプリ時代の顧客獲得成功ポイントとは―
2020年12月10日、D4DRが企画・運営に関わる「Next Retail Lab(ネクストリテールラボ)フォーラム」第34回が、「ニューノーマル時代の食品スーパーのDX戦略」をテーマにオンラインで開催された。 ゲストに株式会社東急ストア デジタルマーケティング部 西澤 慧美氏と東急株式会社 経営企画室マーケティングIT推進グループ 吉井 光生氏を迎え、モデレーターは弊社代表の藤元が務めた。 東急ストア・東急グループのLINE施策を題材に、スーパーアプリを活用したDX戦略ついて議論した。 西澤氏、吉井氏の講演では、LINE公式アカウントの導入・運用を中心に、東急ストアのDXの取組みについてお話いただいた。 東急ストアのDXの取組 LINE導入のきっかけ 東急ストアでのLINE導入のきっかけは、消費増税を前にした2019年4月頃、スーパー業界でもキャッシュレス決済の導入が進んだことだったという。東急ストアでも6月からLINE Payの試験導入を開始し、それを機に決済手段以外でのLINE活用にも着目した形だ。 LINE導入以前は、チラシ、レシートクーポン、ネイティブアプリを用いたマス販促しか行っておらず、ネイティブアプリについてはDL数が伸びず、運用や新機能の開発に課題を抱えていた。 9月末に東急ストアLINE公式アカウントを開設。2020年12月現在の友だち数は20万人弱、ブロック率、東急グループの共通ポイント「TOKYU POINT」との連携率も良好な数値であるという。 なお、吉井氏によると、LINE活用は東急ストアだけではなく、東急グループ各社で共通の基盤を作って実施している。今後はLINEのIDをグループ各社共通で活用しようとしているそうだ。 ポイントカード会員連携と店舗登録 東急ストアのLINE施策は、TOKYU POINT会員連携と店舗登録の2つをベースに行われている。会員連携によって、前月の購買情報でセグメントを分け、ターゲット別にインセンティブを設定したクーポン配信を行える。店舗登録情報はチラシの閲覧や店舗別のメッセージ配信に使用している。 友だち獲得は、LINE Pay決済、店内告知ツール、東急グループのメルマガを活用して行っている。LINE Pay決済では毎月100件以上の新規友だちを獲得。来店顧客向けには、店頭POPやレシートを活用し、3ヶ月で友だち数4倍を達成したそうだ。 顧客獲得成功の3つのポイント 西澤氏は、一連の取組みを通して見えてきた、スーパーアプリを活用した顧客獲得成功の3つのポイントを挙げた。 デジタル上の顧客接点を作りやすいプラットフォームを活用する スーパーの一番の顧客接点である「お店」を最大限活用する 本部主導になりすぎず、各店長を巻き込んだ取り組みにする 1つ目は、ミニアプリを活用し、顧客接点を日常的に使用しているスーパーアプリ上に構築すること。2つ目は、店舗を最大限活用して、ロイヤリティを持っている顧客をキャッチすること。最後に、本部からの押し付けではなく、現場を最もよく知る店長にタイムリーにデータが集まり、手を打てる環境を作ることが成功のポイントであると西澤氏は指摘した。 食品スーパーのDX戦略はどうあるべきか(ディスカッション) 講演後は、NRLフェローのロケスタ株式会社 長谷川 秀樹氏、スタイルビズ 村山 らむね氏、LINE株式会社 比企 宏之氏らを交え、ディスカッションを行った。トピックは東急グループのDXの取組、企業のDXにおけるミニアプリの位置付け、食品スーパーの流通など、幅広い領域に及んだ。ここでは、その一部を抜粋して掲載する。 店舗でのデータ活用について 藤元(モデレーター): 講演で、店長を巻き込んだ施策の中で、店舗別データをBIツールで展開しているとあったが、どんなツールを使っているか。 吉井氏: Tableauを使って、東急グループに提供できるように、会員データを中心にデータを揃えている。その中にLINEのデータも整備している。TOKYU POINTとLINEを連携している人の場合、お買上金額によるランク別の人数を店舗別に見られるようにしている。 西澤氏: 店長が集まる毎月の会議でツールについて説明したりしていた。普段の店舗業務でデータを見る時間がなかなか無い中で、いかに役立てるかを考えた。自分の店舗でLINEに登録している人が何人いるかがリアルタイムで見られることがモチベーションに繋がっている場合もある。 東急グループのLINE施策について フェロー: LINE活用で、どのように売上を上げようと考えているのか。 吉井氏: LINEの共通IDを使って、顧客基盤を一つにまとめようとしている。東急グループは会社間のサービスの親和性が高く、一つのサービスを利用すると、他のサービスも東急で、ということが多くある。今まではグループ各社が独自で顧客基盤を整備していたが、共通IDで相互送客できるようにしたい。 フェロー: TOKYU POINTカードや、東急ロイヤリティクラブなどの既存の施策ではそれは実現できないということか。 吉井氏: TOKYU POINTは沿線全域で効果があるわけではない。沿線の端のエリアではカバレッジが低い。会員の年齢層も高いため、カバレッジを沿線全体に広げ、若い層も取り込むことが課題だった。その解決策の一つとしてLINEを選んでいる。 スーパーアプリ活用について フェロー: 東急グループの取組は、オフラインDXの体現として他社からも注目されている。LINE活用では、ミニアプリもLIFF(LINE Front-end Framework)も全部使って、こういう体験を実現するならミニアプリだよね、という考え方をしていて、ツールに振り回されていない。 吉井氏: ミニアプリはあくまで手段の一つなので、あくまで顧客ファーストでそれありきでは考えないようにしている。運営側の現場を置き去りにしないことも大事。例えば、モバイルオーダーの実証実験では、アプリをそのまま使わず、現場のオペレーションを考慮してペインポイントを修正した。 フェロー: ユーザー視点からは、レジでいろいろな動作をしなければならず、その上ポイントを貯めるアプリと決済アプリを両方開くことを負担に感じる。買い物という目的を達成するための作業が短時間でミニマムで済めば、それがミニアプリでもネイティブアプリでも、どんな形でも構わないと思っている。 フェロー: その点、ミニアプリはLINEがインストールされていればQRを読み込めばいいだけなのでフリクションレスでサービスを受けられる利点がある。 後半の議論では、上記の内容の他に、モバイルオーダーの実証実験や、LINEで収集した意見を使ったフードロス削減の試みなどについても伺うことができた。 決済のデジタル化や、レジ袋の有料化、コロナ禍の巣ごもり消費拡大など、さまざまな要因で食品スーパーの店舗における生活者の体験は変化している 。東急ストアのLINE施策では、TOKYU POINT会員連携で既存の仕組みを活かしながら、スーパーアプリ上のミニアプリの利点を発揮している。 デジタル上での顧客接点も変化を迫られており、スーパーアプリ活用はそのための有力な手段の一つであると感じた。 (記事協力:D4DR株式会社)
- 第33回フォーラム開催レポート「売らない店舗の戦略」
第33回 「Next Retail Lab(ネクストリテールラボ)」フォーラムが開催されました。 今回は、株式会社丸井 代表取締役社長 青野真博氏 をお迎えし、「売らない店舗の戦略」についてお話いただきました。 小売を巡る時代変化と、丸井の戦略 丸井は首都圏を中心に30店舗を展開し、小売事業・フィンテック事業一体で経営を行っており、これは創業以来変わらないという。 ビジネスモデルはバブル期とリーマンショック後に転換が見られ、バブル期はターゲットを若者に、ファッションを主軸商品とし、丸井のハウスカードを中心にした顧客の囲い込み戦略をとっていた。 リーマンショック後はターゲットを全世代とし、ライフスタイルを商品として提供し、エポスカードは汎用カードとなり間口を広げた。 また、小売事業の店舗形態も変化しており、自主ブランドの売り場を縮小してテナントを増やしたこと、テナントからの収益を売上歩合から固定家賃中心へ変更している。この背景には、被服履物の消費支出が直近20年で6割減少した半面、レジャー、エンタメ、外食などのコト消費が拡大したことから、店頭で売上が立たないサービス提供型テナントにも入居してもらう狙いがあり、その結果入居テナントに銀行、証券会社、病院、行政サービスなど、各地区・地域のニーズに応じたテナント構成が可能になったという。 丸井はなぜ、売らない店舗を目指すのか? 丸井の青野氏は「世の中の変化に対応するため、売らない店舗を目指す」という。なぜ売らない店舗を目指すのか、いくつかのポイントを伺った。 顧客の価値観、買い方の変化 顧客のインターネット利用時間はスマートフォンの普及により爆発的に増加し、EC利用が大幅に拡大した。一方、チェーンストアや百貨店などのリアル店舗利用は縮小傾向にある。新型コロナの影響により、この傾向はますます加速するだろう。 これまでの買い物はリアル店舗が主役で、ECはそれを補完する役割であった。しかし、オンラインが情報収集、コミュニケーション、買い物をする場に変化したことで、リアル店舗の役割は「発見や体験をする場」に変化してきている。 D2Cの台頭 青野氏は、アメリカ視察での気づきも語られた。 かつては人でにぎわった、スケートリンクや数百規模のテナントスペースを持つ超巨大ショッピングモールは、今や人がほとんど集まらず、テナント出店もまばらなデッドモールと化している。 一方、ソーホー地区等には賑わっている店舗も存在し、その賑わいの中心にあるのは、D2Cの店舗であるという。 https://www.warbyparker.com/retail/new-york/121-greene-st 「WARBY PARKER」 ※D2C 「Direct to Consumer」 消費者に直接商品を販売するモデル。ブランディング、PR、マーケティング、販売などがすべてデジタルで完結している点が特徴 オンラインが主体のD2Cブランドが「商品を体験する場」としてリアル店舗を活用し、売らなくても顧客が喜ぶ店づくりを構築している。また、顧客も商品の体験ができ喜び、店頭スタッフも売上を気にせず、顧客に満足してもらうことへ終始できるため、生き生きと接客していたという。青野氏は、その姿に小売業の重要なファクターを発見したと述べた。 オンライン事業者のチャネルシフト オンライン専売事業者として知られたAmazonは、近年オフラインにも進出し、リアル店舗を展開している。 日本においても、有楽町マルイにてAmazon Echo体験ポップアップストアを展開した。 丸井はメルカリともタッグを組み、初のリアル常設展開となる「メルカリステーション」を出店。メルカリ体験ができるリアルの場として、好評のようだ。メルカリステーションの運営については、ショップのコンセプト等はメルカリ側で企画し、実際のショップ運営に関してはマルイが委託を受ける形を取っているという。 メルカリステーション@新宿マルイ(筆者撮影) 私も実際に訪れてみたが、非常に丁寧な接客をいただき、メルカリで出品をしてみようという気持ちになった。接客のノウハウ・スキルは、丸井が持つ強力なアセットであることが確認できた。 丸井の売らない店 特徴的な3店舗 丸井にてリアル店舗を構える売らない店、代表的な3店舗をご紹介いただいた。私も実際に訪問したため、感想も添えて記述したい。 b8ta RaaSモデルのパイオニアと言われる、シリコンバレー発の体験型ストア。ベンチャー企業の革新的商品や、最新IoT製品を中心に、最先端のアイテムが並べられており、商品の隣にはタブレットが設置されている。 タブレットを操作すると、商品のコンセプト、使い方、価格などの情報が表示される。店舗を区画で区切り、出品者から月額固定の出品料を取るモデルになっており、売らない店の新しいビジネスモデルを展開している。 b8ta@新宿マルイ 実際に新宿マルイ内の店舗を訪問したところ、様々な面白い商品がジャンルを問わずに陳列されており、商品情報もタブレットから自由に収集できるため、スマートフォンやタブレットの操作に慣れている私たちにとっては、思いのほか快適であった。 一部在庫のある商品もあるが、基本的にはその場で買わない商品が陳列されているため、消費者側はその場で購買を決断しなくてよく、心理的負担は少ないように思った。 lululemon カナダ発のアスレジャーのトップブランドで、どの世代も、どのセクシュアリティも、一日一汗(1日1回汗をかく運動をすること)を達成していくことをブランドメッセージとして発信している。 売り場ではヨガウェアをはじめとしたアパレルを中心に販売しているが、瞑想スタジオやヨガスタジオ、トレーニングジム、更衣室、コミュニティスペースなどが用意され、ヨガレッスンやランニングイベントを通して、世界観を体験できる場となっている。 スタッフ(lululemonではエデュケーターと呼ばれる)は「商品を売ってはいけない」と指示されており、日常会話からエデュケーター目線でのオススメを行い、長話やハグをすることも許されているという。 私が実際に店舗を訪れたところ、顧客とスタッフが非常にフランクに会話を楽しんでおり、このようなコミュニケーションを通じて顧客と密な関係を構築しているのだと実感した。 損得勘定抜きにした、スポーツを通じた関係性は、顧客にとってもスタッフにとっても楽しく、価値のあるものとなるだろう。 Apple 新宿マルイ1階の伊勢丹に面した人通りの多い一角に、Apple新宿は店を構えている。私が訪問した日曜日の昼間も、外まで行列する盛況ぶりであった。 Appleが新宿マルイに出店する際、Appleの幹部は街のコミュニティを作りたいと言っていたそうである。AppleはIT企業でありながら、リアル店舗を重要視している。その理由は、人間は家の中だけ、スマートフォンからの情報だけという生活を良しとせず、必ず外に出たいと感じる存在であるから、とのことである。 Apple新宿では、Apple製品でないガシェットなども販売されており、気軽に入ってもらうための工夫がなされているという。このような売らない店舗でありながら、日米において最大の坪効率を達成しており、皮肉にも売らない店舗が、一番売る店舗になっているということだ。 なぜ売らない店が成立するのか? 丸井はテナントへの売上歩合から固定家賃中心のビジネスモデルに転換したことで、安定して利益を稼ぐことができるようになっている。 また、テナント側の利益構造も変化しており、EC・リアル併売顧客の顧客単価やエンゲージメント率が高まっていること、ECがレッドオーシャン化したことでプロモーションコストが高騰し、リアル店舗への出店コストが相対的に低くなっているという。 丸井においても敷金ゼロなどの、イニシャルコストを減らすプランを提供している。EC・リアルの併用により、ブランド価値の向上、顧客LTVの向上につながっているということだ。 売らない店の先にある、小売業の未来は?(ディスカッション) 青野氏の講演後は、NRLフェローによる質問やディスカッションが行われた。一部を抜粋してお伝えしたい。 フェロー: 生活者リサーチの結果を見ていると、顧客が店舗に求めているものは「居場所」であるとの傾向が見られた。リテーラーから見ると、坪効率が壁になっており、これが指標である限りはチャレンジが難しいと感じる。リアル店舗の指標が何であるべきなのか、知りたいと思う。 青野氏: 現在の丸井では、店舗での売上を考えなくて良いため、坪効率を追求することは意味が無くなってきている。NPS(ネットプロモータースコア)など、お客様との接点の中でどれだけ満足いただけたかをKPIにしており、テナントでも月坪を指標にしているところはない。 ビジネスとして長い目で見ると、LTV(ライフタイムバリュー)が非常に重要になるかと思っている。リアル店舗だけでなく、ECも含めてどれだけ顧客に貢献してもらえているか、を図っていく必要があるだろう。 フェロー: 今日お話しいただいた丸井の「売らない店舗」は、ウェルビーイング、サステナビリティが重要であるという CSV(Creating Shared Value) につながると、個人的には感じた。 丸井は場の捉え方が他と異なっており、お客様に無理強いをさせない、価値を共創する場になっていると感じる。 青野氏: お客様の価値観は進化しており、モノロジックから「サービスロジックを価値として提供」し、満足してもらう必要がある。そうしなければ、サステナビリティに繋がらず、共創する場を提供することはできない。 丸井では「共感」を重要視している。「ウェルビーイング」はスポーツや健康だけでなく、幸福まで含んだ幅広い概念で、そこに共感していただける仲間を作っていくことが重要と考えている。 つまり、「ビジネスとして」持続可能なことを共創していく。丸井だけでなく、いろいろな人の知恵を集めることで、喜んでもらえる・大きな価値を提供できることにつながるのではと考えている。 フェロー: 丸井の追求する新しいスタイルの小売は、「体験できる」「買わなくて良い」という新たな常識を作っている。買わなくて良いとなった瞬間に、お客様の買い物体験は楽しくなるだろうと感じる。 ところで、今後のSCの形はどうなるのか?ある程度大規模のSCが必要なのかどうかなど、ご意見を伺いたい。 青野氏: 新型コロナウイルスによる価値観変容を受け、見方は変わった。 私は、地域のニーズをしっかりとくみ取った、小型のSCが増えていくのではと考えている。 お客様にとっては様々な選択肢があり、自分のお気に入りのモノやサービスが複数ある、という状態が最良であると考える。新しい選択肢がどんどん出てくることが、世の中全体の良い流れになるのでは、と感じる。 丸井の目指す売らない店舗は、お客様、メーカーと共に価値を創造していく場であるとの言葉が、非常に印象的であった。 近年注目されるSDGsの概念を経営に取り入れ、サステナビリティな未来を目指す動きが、講演の内容から感じられた。 顧客の価値観変化に対応し、ビジネスモデルを転換した行動力の早さは、丸井が時代の挑戦者と呼ばれる所以であるだろう。 新型コロナウイルスにより日本がデジタル後進国であるという事実が露呈したが、急速にデジタル化に向けて動き出している。 デジタル化の推進は各個人の選択肢を広げ、様々な価値観を生み出し、ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現を後押しする。今後の小売に求められる、「共創」「共感」「サステナビリティ」「ダイバーシティ」など、様々なキーワードが聞け、まさに小売のあるべき未来が語られた夜となった。 (記事協力:D4DR株式会社)






