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第53回Next Retail Labフォーラムレポート「現場主導のデータ駆動経営が成功をもたらす!」


11月17日、第53回目になるNext Retail Labフォーラムが開催された。

今回はゲスト講師に柳瀬 隆志氏(株式会社グッディ代表取締役社長)をお招きし、「現場主義のデータ駆動経営」をテーマに、自社の取り組み事例やそこからの気付き、これからの展望などをお話いただいた。




1976年福岡生まれ。 東京大学経済学部卒業後、2000年三井物産入社し、食料本部に所属。冷凍食品等の輸入業務に取り組んだ後、2008年嘉穂無線株式会社(のちの株式会社グッデイ)入社。 営業本部長・副社長を経て、2016年6月嘉穂無線ホールディングス株式会社、及び株式会社グッデイ社長就任。2017年4月からは、グループ会社の株式会社カホエンタープライズにて、クラウド活用やデータ分析を行う事業にも取り組んでいる。




■ホスト:菊原 政信 フィルゲート株式会社 代表取締役(NRL理事長)

■進行・モデレーター:藤元 健太郎 D4DR株式会社 代表取締役(NRL常任理事)

■ディスカッション参加フェロー:

・長谷川 秀樹 氏 ロケスタ株式会社 代表取締役

・郡司 昇 氏 店舗のICT活用研究所 代表

・濱野 幸介 氏 株式会社プリズマティクス株式会社 代表取締役



目次

1 既存の仕組みを変えられないDX後進企業が、日本DX大賞・大規模法人部門で大賞を受賞するに至るまで

2 システムだけでなく「人材のDX化」を通じて、社員のモチベーションを高める

3 DXを通じて、動き続ける・アップデートし続ける企業へ

4 まとめ


既存の仕組みを変えられないDX後進企業が、日本DX大賞・大規模法人部門で大賞を受賞するに至るまで


「第1回日本DX大賞」の「大規模法人部門」で大賞を受賞したグッデイだが、2008年に柳瀬氏が入社した際は、全くデジタル化の進んでいない状況であったという。IT人材は不足しておりいわゆる「一人情シス」の状態で、ウェブサイトもメールも使わず、資料も紙ベースのアナログ環境、既存の仕組みを変えられない変化を嫌うカルチャーがまん延したDX後進企業だった。現場では、売り場構築も「経験と勘」を元に、計画がなく行き当たりばったりの状況で、業績不振に陥っていた。

柳瀬氏は、業績不振という状況もあり、システムを一から構築するのではなく、既存のSaaS等のシステムを活用し、比較的低コストでデジタル化を推進した。情報共有ツールには「Google Workspace」を導入し、社内のコミュニケーションを強化したほか、BIツールの「Tableau」で、店舗カルテ、リアルタイムな売上データや売上予測データ等を経営判断に必要な分析を行えるようにした。 その際、既存の自社基幹システムは業務負荷や費用面などの理由で手をつけず、新たにデータシステム基盤を構築した。基幹システムに蓄積されたデータはクラウド上のビッククエリに蓄積し、その他にたとえば気象庁のデータも連携している。

新たなデータシステム基盤が構築されたことで、スマートフォンやタブレット端末から在庫情報へのアクセスや発注業務ができるようになり、作業効率が大幅に改善した。また、売上のリアルタイム把握や、BIツールでの多角的な分析がスピーディーに行えるようになったことで、業績向上につながる施策が実行できるようになった。


システムだけでなく「人材のDX化」を通じて、社員のモチベーションを高める


多くの企業が抱える重要課題として、デジタルリテラシーの格差がDX化を妨げている実情があるが、グッデイではどのようにこの課題を解決したのだろうか?

柳瀬氏がグッデイに入社した当初はIT人材が不足しており、変化を嫌うカルチャーがまん延していたことは前述の通りだ。現場では、売上等の数字よりも経験や勘で売り場を構築していたり、具体の計画が無いまま行き当たりばったりの対応を行い、勘が鈍るからデータを見ないという価値観も一部で浸透しており、経営的な観点からのマネジメントができていない状況だったという。

社員のマインド変革の一貫として、選抜された社員に向けたデータ勉強会を実施。統計の基礎やツールの扱い方等の学びを通じ、データドリブン・経営目線からの分析ができるようになってきただけでなく、新しい取り組みに積極的に参加していく空気やチャレンジ精神が醸成できたという。売り場や商品部などでは、データを活用した売り場構築や商品開発、仕入等において、その成果が見える化していくにつれて社員の自信やモチベーションアップにつながり、社内全体の空気が変わっていったという。

フェローの長谷川氏からは以下の質問があった。


長谷川氏:組織として、どのくらいSQLを組めたりTableauでダッシュボードを構築できる等の人材が必要と考えているか?


柳瀬氏:本部社員が100名ほどいるが、5~6割にまで高めていければと考えている。店舗の現場も含め全員が必要なスキルとは考えていないが、データの裏付けがある施策や行動を取ったほうが効率は良いだろう。小売の現場は、実際の商品や売上のデータを使って分析できたり、あるファクターがすぐにデータに反映したりと、現場からすぐに成果を発掘できて独特の面白さがあると思うので、データ経営に関心を持つ人には楽しいと思う。


DXを通じて、動き続ける・アップデートし続ける企業へ


「DX(デジタルトランスフォーメーション)は目的でなく、デジタルを通じて課題を解決し、それを扱う人のマインドを業務変革やイノベーション思考にアップデートしていく手段である」 このように何度か柳瀬氏が述べていたのが印象的だった。


最後に企業のあり方について話があり、「企業にも慣性の法則がある」という言葉にDX大賞を受賞するまでの今までの苦労が読み取れた。なかなか変われない、変わりたくない企業は、止まっているものは止まり続けようとする慣性の法則そのものだ。しかし、逆に動いているものは動き続けようとするのも事実。人材や企業が第一歩を踏み出すために、最初のひと押し(とても大変ではあるが)で動きを作れば、そこから周りも変わっていく。 実際に柳瀬氏もこれらの取り組みを通じて、社員の動きが変わっていったことを実感したという。最初は傍観者だった社員が、少しずつ成果や結果が可視化されるにつれて、私もやってみたい、私もなにか力になれるのではないかと行動変容していった。 企業としては、時代の変化に対応して新しいことをやる、状況を分析して自社の進むべき方向性を示すこと、それに応じた「スキル・インフラ」をアップデートし続けていくことが必要であると締めくくった。


フェローの濱野氏からは以下の質問があった。


濱野:もともとデータを扱っていなかったり、否定的な意見を持つ人への「最初のひと押し」は相当の摩擦力があったと思われるが?


柳瀬氏:最初は本部主導でデータ活用の成功事例を積み上げていった。導入初期に現場でつまずいてしまうと、その後再度使ってもらうのに大きな力が必要になるためだ。実際、本部でこなれてきた頃に、現場から自発的に活用したいとの声が出始めた。

まとめ


グッデイの取り組みでは、ITインフラやシステム構築だけでなく、人材育成・DX化の優れた戦略が印象的であった。データ活用やデータ経営に興味のある社員を発掘し、データ勉強会(現在はGooDay Data Academyと呼称)を通じてスキルを引き上げ、数々の成功事例を原動力に、人材の力で「動ける会社・アップデートできる会社」へと変革していった。 ディスカッションでは今後の取り組みも聞かれた。すでにLINE公式アカウントは多くの会員数を擁するが、会員IDとPOSデータから顧客を分析し、顧客提供価値を更に高めていくとのことだ。また、今後は「ウェルビーイング」をテーマに、顧客へ新しい暮らしやライフスタイルを提案していきたいと語った。福岡県糸島の古い家を購入し、自分たちでリフォームをする取り組みも面白い。実際の取り組みを通して、どのような作業が楽しくて、役に立つのか。その経験から、グッデイが今後どうあるべきかを思考しながら、ウェルビーイングを探究していくとのことだ。



主催:Next Retail Lab

問い合わせ先

電話:03-6427-9470

e-mail:info@nrl-lab.net

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