2024年2月16日、63回目となるNext Retail Labフォーラムが開催された。
Next Retail Labとは、「次世代の小売流通」をテーマにした研究会で、製造から小売りまで、さまざまな業種に関する調査研究や、マーケティング視点での提言などを行う任意団体である。
今回は、「Z世代が熱狂するeスポーツとリテール/マーケティング」をテーマに、大会やイベント運営を手がける株式会社CyberZ 、イベントをスポンサードしマーケティング施策を展開している株式会社モスフードサービス、プロチームマネジメントなどを行う株式会社XENOZ、そして2022年にXENOZを買収してeスポーツ事業に参入し注目を集めたJ. フロントリテイリング株式会社と、eスポーツ事業にさまざまな角度から携わる企業から業界の第一人者が集い、eスポーツの現状や将来の展望、さらなる市場拡大に向けた課題などについて語ってもらった。
また、あわせてNext Retail Labのフェローも参加したディスカッションが行われ、さまざまな論点で議論が交わされた。
Z世代の支持を得て市場を拡大しているeスポーツと、若者にアクセスしてファンの獲得や商品訴求などを目指すリテール業界が、お互いの強みを生かしながら価値を生み出していくためには、何が必要なのか。eスポーツ業界の今と未来をレポートする。
目次)
講演:
CyberZが展開するRAGEの各種施策(大崎章功氏:株式会社CyberZ)
・Z世代が熱狂するeスポーツ、ファン数800万人、160億円の市場規模に成長
・Z世代へのリーチやコンテンツを生かし、あらゆる業種の企業とコラボ
モスバーガーが実施するeスポーツマーケティング施策(大楽泰督氏:株式会社モスフードサービス)
・「eスポーツ来てるぞ」、半信半疑で会場に行き感じた熱狂とは
・「ゲームは遊び」という固定観念をどう覆し、社内を説得するか
eスポーツと流通企業のビジネスコラボレーションの形とは?
(島袋孝一氏:J. フロントリテイリング株式会社、金濱壮史氏:株式会社XENOZ)
・「日本から世界に」をミッションに、プロ選手を育成・マネジメント
・銀座シックス、PARCOなどグループ会社とのシナジーで活動を拡大
ディスカッション:
eスポーツのすそ野を広げ、市民権を得るには何が必要か
・「日常に溶け込んだeスポーツ」、すそ野拡大を目指したカフェ
・プロとしての収入アップ、市民権獲得…eスポーツが目指す未来は
まとめ
登壇者)
■講師:
大﨑章功氏 株式会社CyberZイベント事業部 RAGEゼネラルマネージャー
大楽泰督氏 株式会社モスフードサービス デジタルマーケティンググループ グループリーダー
島袋孝一氏 J. フロントリテイリング株式会社 グループデジタル統括部 兼 株式会社XENOZ 経営企画部
金濱壮史氏 株式会社XENOZ 執行役員
■ホスト:菊原 政信 フィルゲート株式会社 代表取締役(NRL理事長)
■進行・モデレーター:
江端浩人 江端浩人事務所代表 次世代マーケティングプラットフォーム研究会主宰(NRL常任理事)
藤元健太郎 ディー・フォー・ディー・アール株式会社 代表取締役社長(NRL理事長)
CyberZが展開するRAGEの各種施策(大崎章功氏:株式会社CyberZ)
最初に登壇したのは、株式会社CyberZの大崎章功氏。成長を続けるeスポーツについて、そして、他社と協業して興行しているeスポーツのブランド「RAGE」の取り組みについて、講演を行った。
(※以下、大崎氏の講演より抜粋)
Z世代が熱狂するeスポーツ、ファン数800万人、160億円の市場規模に成長
eスポーツは「エレクトロニック・スポーツ」の略で、ゲームを競技として捉え、従来のスポーツのようにプレイしたり観戦したりする際の名称です。
コロナ禍が落ち着き、現在は全国各地でオフラインの大きなイベントも開催されるようになり、市場規模は年々拡大しています。2023年の市場規模はおよそ160億円で、ファンの数は約800万人、来年にはサッカーのJリーグとほぼ同じ1,000万人に到達するのではないかと予測されています。
我々はエイベックス、テレビ朝日と協業して「RAGE」というブランドのeスポーツリーグやイベントを開催・運営しています。ゲームタイトルにも左右される部分はありますが、イベント来場者の7割から8割はZ世代で、男女の比率は約半々くらいです。10年ほど前は来場者のほとんどが男性でしたが、女性のファンが増えているというのも昨今の特徴の一つです。
RAGEのイベントは規模も頻度も伸びていて、今年は1ヶ月に1回ぐらいのペースで大規模イベントを開催していく計画になっています。また年間270〜280日のオンライン放送を手がけており、アジアからも注目されるような、日本で最も大きなブランドに成長してきています。
我々は、サッカーでいうJリーグのように大会を運営するという役割、それから格闘技でいうRIZINのようにマッチメイクをして大会をプロデュースするような役割を担い、プロに限らずアマチュア含めた、eスポーツにおける興行のブランドとして活動しています。
我々の事業としての大きな強みの一つは、人気タイトルの公式大会興行権を持っていることです。世界中にいろいろなゲームタイトルがありますが、例えば日本でも現在人気を博している「VALORANT」というゲームタイトルのプロリーグは、RAGEが大会運営をしています。
そして、多くのストリーマーやゲームのプレイヤー、視聴者との関わりの中で、いわゆるインフルエンサーを巻き込んだマーケティングの施策、タイアップなども実現可能です。SNSも、RAGEの公式アカウントのほかに、公式大会興行権を持っているゲームタイトルやゲーム大会のアカウントも一部運用しており、大きなリーチを武器に、いわゆるソーシャルマーケティングとしても影響力を作ることができているのではないかと思います。
また、新たなタッチポイントとして、2024年1月末にRAGEのカフェをオープンしました。ここでは、eスポーツの試合を流したり、あとはチームと連携したイベントを開催したりしていて、近々パブリックビューイングも予定しています。
eスポーツの事業をしていく中で、大規模なイベントだけではない、日常に溶け込むような形でeスポーツに接点を持っていただける場を持ちたいと考え、実現したものです。
Z世代へのリーチやコンテンツを生かし、あらゆる業種の企業とコラボ
このように成長を続けているeスポーツの世界で事業を展開している我々ですが、いろいろな取り組みに参加いただく企業の皆様の数も、ありがたいことに年々増えています。事業を立ち上げた当初は、いわゆるPCデバイス関連など、参加いただく業種が限られていたのですが、最近は、飲食や金融など、本当にあらゆる業種の企業の皆様とご一緒させていただけるようになりました。
直近の取り組みとして、化粧品メーカーの株式会社コーセーさんと実施したイベントについてご紹介いたします。
きっかけは、いわゆるZ世代へのマーケティングのために、eスポーツというドメインと、我々の持つコンテンツであるイベントに対して、コーセーさんが興味を持ってくださったことです。昨年9月に実施されたVALORANTのオフライベントで、ステージに出るeスポーツのプロ選手やストリーマのメイクをしていただいたり、タイアップという形で広告のキャンペーンを展開したりして、若年層をターゲットに化粧品やネイルをPRする施策を行いました。
こちらの事例以外にも、いろいろな企業の皆様と施策を実施していますが、そうした取り組みがマーケティングにおける効果を生み出すことができたのかどうか、我々は定量的なデータや定性的な振り返りをレポーティングとして提出しています。
内容としては、イベントの来場者数や視聴数といったリーチ、顧客のSNS上でのリアクション、それからアンケート調査の結果など多岐にわたります。定性データは、リサーチ会社を使ってアンケートなどを取るケースもあると思いますが、我々の場合はSNSのフォロアーや来場者に対して直接モニター調査を実施して、企業の皆様が聞きたいをことを直接質問するほか、ブランドイメージがどう伝わったかなどを、自ら調査しています。
今後も、多くのイベントを実施し、魅力的なコンテンツを作っていきますので、ご興味を持っていただけましたら、是非、お声がけいただければと思います。
モスバーガーが実施するeスポーツマーケティング施策(大楽泰督氏:株式会社モスフードサービス)
続いて、株式会社モスフードサービス大楽泰督氏より、スポンサー視点でのeスポーツとの関わり、マーケティング施策について紹介された。
「eスポーツ来てるぞ」、半信半疑で会場に行き感じた熱狂とは
私たちモスフードサービスは、先ほど大崎さんからお話があったRAGEさんのイベントに協賛し、いろいろなマーケティング施策を実施しています。
多くの企業が、若い人たちとコミュニケーションをとりたいという課題を抱えています。その中で、Z世代から支持され人気を得てえるeスポーツの皆さんと何か一緒にできないかと考えたのが、取り組みのきっかけです。
実を言うと、私自身は元々、eスポーツを知ってはいたものの、そこまで詳しいわけではありませんでした。しかし、あるとき知り合いから、「eスポーツ凄い来てるぞ、見に行った方がいいぞ」とすすめられてRAGEさんのイベントに行き、大変驚いたんです。
まず熱狂がものすごい。そして来場者のほとんどがZ世代で、おしゃれな女性も多い。しかも中には、応援しているプレーヤーの名前が書かれたうちわを持っている人がいて、まるで「推し活」のような状況です。
正直、eスポーツはすごいといっても、そこまでではないだろうと思っていたのですが、実際に会場に行って熱狂を体感し、自分が想像していたような世界とは全く違うんだと実感しました。
さて、そうした経緯でeスポーツに関わるようになった私ですが、RAGEさんと一緒に当社が取り組んでいることをご紹介させていただきます。
初めて協賛をしたのは、昨年の3月に行われた、「VALORANT Challengers」というイベントです。そのイベントで、ストリーマーの方達にモスバーガーの商品を50個ぐらい差し入れして、その場で食べながらゲームを観戦し感想を言っていただいたり、ゲームの実況解説の方に食レポをしていただいたりするという施策を実施しました。モスバーガーが出てくると、「モスバーガー来た!」みたいなコメントが画面に出てくるんです。これが嬉しくてたまらないんですね。
RAGEさんとしてはいろいろなイベントを行っていますが、私たちとしては、VALORANTに関するものに現在はしぼって注力しています。なぜかというと、このゲームでは「VAMOS」という言葉がよく使われているからです。元々はがんばれとかLet’s goといった意味を持つスペイン語由来の言葉らしいのですが、強いチームが掛け声として使うなどしたことから、VALORANTで良いプレーが出たときに頻繁に使われる言葉として定着しているんです。これをもじって、「バモスバーガー」という掛け合わせた言葉を広げ、ゲームコミュニティーにおける当社商品の認知拡大をはかりたいと考えています。
バモスバーガーを覚えてもらう取り組みの一つとして、モスチキンをVALORANTの世界の銃にみたてたパロディ動画も作りました。息子が自宅でモスチキンを銃にして遊んで妻に叱られているのを見て、それをヒントに作ったものです。
他にもイベントでキッチンカーを出したのですが、これが長い行列ができるほど盛況で、1日の売上として過去最高を記録しました。
その後もいろいろな協賛をさせていただいていますが、現在はまだプロモーションフェーズ、認知を得るという段階です。なかなか結果を出し切れてはいないのですが、単なる認知ではなく、今後いかに好意的な認知を取っていけるかが取り組みのポイントだと思っています。
「ゲームは遊び」という固定観念をどう覆し、社内を説得するか
私たちがRAGEさんのイベント協賛で行っている取り組みをご紹介しましたが、あわせて、eスポーツのスポンサーとして活動をするために、どのように社内で合意形成をとるかという点について、少しお話させていただきます。
社内でOKをもらうためには、当然、eスポーツのことを良く知っているマーケティングなどの担当者だけではなく、それって何?という温度感のひとたちも説得しなければなりません。
一般的に、上の世代にはまだゲームに対するネガティブなイメージをお持ちの方もいらっしゃると思いますが、当社でも、やはりそうした雰囲気が一部にありました。私もゲームをあまりやらないので、理解できるところもあるのですが、ゲームは遊びであり、スポーツのように盛り上がるなんて、そんなはずはないといった思い込みがあるんです。
ここで重要なのは、目線をその方たちと同じにすることです。考えを否定してしまうとそこで話が終わってしまうので、まずは「実は僕もびっくりしたんです」と、相手の感覚に理解を示すことが必要です。
その上で、さいたまスーパーアリーナが満員になっているイベント会場や、入場に長い行列ができている様子、最新のファッションに身を包んだ若い女性が楽しんでいる姿などの写真を見ていただきます。ゲームに対してなんとなく暗いイメージを持っている人たちは、それを見てとても驚くんです。
それから、日経新聞がeスポーツを取り上げている記事を見せたり、ファンの数がJリーグと同等になっていると伝えることも響きます。さらに、こうしたファクトを次々とたたみかけます。中学生のなりたい職業で、男性2位がプロeスポーツプレイヤー、女性もゲーム実況者が上位に来ている。RAGEのチケットの購買者層は27歳までがボリュームゾーン、8割がZ世代で、男女比も6対4で、男性だけの盛り上がりではなくなっている。
若者の間ではゲームがこれだけ浸透していて、見逃すことができないという印象を強く持ってもらうことが必要です。
私の場合は最後に、役員を大会イベントに連れていきました。実際に会場の様子を見て、熱狂を体感してもらったんです。個人的には、これが一番効果があると思います。
eスポーツで何かマーケティング施策をしたいと考えていても、なかなか社内を説得できず、進め方を悩んでいる担当者の方もいるかと思います。簡単ではないと思いますが、実際に見て感じてもらうことで、活路を見出せるのではないでしょうか。
eスポーツと流通企業のビジネスコラボレーションの形とは?(島袋孝一氏:J. フロントリテイリング株式会社、金濱壮史氏:株式会社XENOZ)
講演の最後に、大丸松坂屋百貨店やパルコなどを傘下に持ち、eスポーツ事業への参入が大きな話題となった、J. フロントリテイリングの島袋孝一氏と、グループ会社であるXENOZの金濱壮史氏より、施策について紹介された。
(※以下、島袋氏、金濱氏の講演より抜粋)
「日本から世界に」をミッションに、プロ選手を育成・マネジメント
私たちXENOZは、「SCARZ」というプロeスポーツチームの運営、マネージメントをしています。2022年12月に、J. フロントリテイリングが出資という形で参画し、グループ会社という形で共同的に事業運営をしています。
SCARZはいろいろなジャンルのゲームの選手をかかえており、先ほどからお話が出ているVALORANTはもちろん、その他にも例えば女性に人気の高い「第五人格」というゲームの部門を持っています。第五人格は中国の会社が運営しているゲームなのですが、お台場に新しくできた体験没入型の新しいテーマパーク[1] 、イマーシブフォート東京にも第五人格のアトラクションができるなど、かなり人気を集めているゲームです。
他にも、オリンピックeスポーツに採用されているeモータースポーツや、Honor of Kingsという昨年のモバイルアプリ売上が世界で5番目に高かったゲームなど、現在は7つの部門で選手とコーチが60名以上いるという構成になっています。ゲームの種類も多様で、ゲーミングパソコンを使ってやるゲームや、いわゆる据え置き型で遊ぶゲーム、スマホゲームなど、いろいろなゲームのプロ選手の育成、マネージメントをしています。
私たちが掲げているのは、「日本から世界に」というミッションです。競技でしっかり勝ち、世界に向けて成長していき、その姿をファンの方に見せていくことで、夢を与え、僕も挑戦してみようと思っていただける存在になりたいという思いで活動しています。
元々eスポーツプレイヤーだった代表の創業ビジョンもここに根ざしておりまして、12年前にSCARZを発足した当時は現在のような賞金もなく、ヘッドホンやマウスなどの景品がもらえれば嬉しいという状況だったそうです。eスポーツをビジネスにして、活躍できる選手を増やしたいという思いが、創業のきっかけだったと聞いています。
もう一つ掲げているのが「NEW AREA(ニューエリア)」です。eスポーツは身体性が低いので、男女で競ったり、異なる年齢層の方が同時にプレーできるのが特徴です。そうしたゲームの強みを活かして、新しい居場所やコミュニティを作りたいと考えています。
銀座シックス、PARCOなどグループ会社とのシナジーで活動を拡大
SCARZについてのご紹介に続き、XENOZとしての事業内容や活動についてお話したいと思います。
事業としては、先程申し上げたチームの運営やプロ選手の育成などをやりつつ、SCARZというブランド以外にも、さまざまなeスポーツにまつわるコンサルや大会イベント運営などを行っています。また、SNSなどメディアの運営のほか、アパレルのグッズ企画なども社内でやっています。例えば先ほどご紹介した第五人格はファングッズも需要が大きく、アクリルスタンドや、好きなキャラクターと一緒に写真が撮れる透明な写真フレームなどを作っています。社内に元プロのeスポーツ選手だった社員などもいるので、ファンが欲しいもの、ファンとの距離感を非常に良く理解しているんです。また、クリエイターも抱えているので、ファンの気持ちを推し量りながら、どんな商品を作ったら喜んでいただけるのか、社内で企画をよく出し合っています。VALORANTや第五人格など、ゲーム人気に牽引されて、それぞれの事業がぐっと伸びていると言えると思います。
またSCARZには、たくさんの企業の皆様にスポンサードしていただいています。RAGEさんは大会やイベントにスポンサードという形ですが、私たちの場合は、チームやゲーム、IPに紐付く選手にスポンサードいただくという形です。
以前はデバイスメーカーさんやPCメーカーさんのような、ゲームをする人が顧客というところが多かったのですが、現在はBtoBの企業様もいらっしゃいますし、住宅設備機器のLIXILさん、エナジードリンクのREDBULLさん、それから地元のラゾーナ川崎プラザさんなど、ジャンルを問わずいろいろな業種の皆様と取り組みを行っています。
J. フロントリテイリングの出資により、大丸松坂屋、銀座シックス、パルコといった施設を生かしたSCARZとのコラボレーションも増えています。
例えば去年のゴールデンウイークには、銀座シックスでeスポーツのイベントをやるという前代未聞の企画を実施しました。xRの技術を使って、第五人格に出てくるゲームの人気キャラクターが目の前にいるかのような体験をできるというものです。
J. フロントリテイリングとしても、中国の大きなゲーム事業者と直接対話する機会はそれまでになく、先方も第五人格のゲームデータを生で出すのは初めてだったと思うのですが、銀座シックスというブランドと、SCARZのこれまでの取り組みがあって実現できた企画だったと感じています。
もう一つ、渋谷PARCOの上にある1000名規模のPARCO劇場を使った、パブリックビューイングも行いました。SCARZがVALORANTの日本リーグで優勝して、タイのバンコクでアジアパシフィックリーグへの出場が決まったことを受け、SCARZが日本代表として世界で戦える大チャンに、何がなんでもパブリックビューイング場を用意しようという、いわば思い付き、勢いで始まった企画です。
どこでやるかとなった時にPARCO劇場を使わせていただけるという話になったのですが、格式の高い落語や演劇をする場でeスポーツをやるのはどうなんだという声もあったと聞いています。しかも、この時は日本リーグで優勝してからアジア大会まで、確か2、3週間くらいしか日数がなかったんです。その中で、モニターなどのインフラを準備したり、1000名規模の集客対策をしたり、いろいろと調整してなんとか実現することができました。
去年1年間で、11回のイベントを実施したのですが、PARCOグループの会場を使ったイベントがかなり増えています。J. フロントリテイリングの参画以前も、XENOZ独自でイベント開催をやってはいたのですが、開催数としては3〜5倍くらいになりました。グループ会社になったことによって、よりフットワーク軽く、ファンの皆様に喜んでいただける環境をたくさん作ることができるようになったと思います。
私たちはSCARZというプロ選手を抱えつつ、こうしたイベント興行も含め、リアルなビジネスフィールドを持ち、立体的な企画ができるチーム座組になっています。プロチームとしての力、イベントの企画実行力、そしてファンマーケティングという強みを生かして、いろいろなパートナーの皆様と手を組んで、これからも活動を広げていきたいと考えています。
【ディスカッション】eスポーツのすそ野を広げ、市民権を得るには何が必要か
講演に続き、Next Retail Labのフェローらが参加しディスカッションが行われた。一部を抜粋して紹介する。
「日常に溶け込んだeスポーツ」、すそ野拡大を目指したカフェ
江端 先ほどRAGEさんがオープンしたカフェのお話がありましたが、そちらについてお伺いさせてください。私も実際に行ってみたことがあるのですが、とても入りやすく、特にeスポーツが好きな人ではなくても、利用できるような雰囲気になっていました。これは狙ってこうしたイメージのカフェにしたのでしょうか。
大崎 そうですね。パソコンが置いてあって、eスポーツができるいわゆるゲーミングカフェのような施設は他にもいくつかありますし、ここ数年来で増えてはいるのですが、私たちはeスポーツの専用の施設ではなく、日常に溶け込むのものを作りたいと思ったんです。私たちがこのコロナ禍を経験して改めて認識したオフラインの良さ、体感を、日常に取り入れるには、カフェという形態が向いてるのではないかと考え、こちらをオープンする運びとなりました。
まずはeスポーツのカフェだと思わずとも普通にご利用いただいて、ゲームの画面が目に入ってくるとか、たまたま入ったら何かイベントをやっているとか、最初は自然にeスポーツに触れていただける環境にしています。さらに興味を持った方は体験もできるというように、現在eスポーツが大好きという方以外に対してアプローチして、ちょっとずつすそ野を広げるような取り組みをしたいなと思っています。
また、アパレルのショップも併設しているのですが、こちらは日本で手にはいりづらい海外のeスポーツチームのグッズや、ここでしか買えないものなどを置いて、よりファンの皆様に喜んでいただけるラインナップを考えています。
菊川 店舗としての立地も良く、まずよくあの場所を押さえられたなと驚きました。本当に、eスポーツを知らない一般の方がフリーで入れるような雰囲気ですよね。eスポーツを外でやってみようと思ってもこれまでは専用の施設ではないとできなかったのが、あそこだったらふらっと立ち寄ってちょっとゲームをして帰る、という利用の仕方も気軽にできます。まさに、日常に溶け込むというコンセプトを感じました。
島袋 渋谷PARCOの6階には、今おっしゃっていたゲーミングカフェや、eスポーツではありませんが「Nintendo TOKYO」という任天堂さん直営のオフィシャルショップ、モンスターハンターやバイオハザードなどのグッズが買える「CAPCOM STORE TOKYO」など、IPを持った事業者さんが集まるカルチャーフロアのようになっています。
インバウンドの話はよく耳にしますが、渋谷PARCOでもおよそ4割が外国人の方による売上です。多くの外国人の方が、いわゆるジャパニーズクールカルチャーを目指して6階まで上がってきてくださるんですね。こうした場所を、今後私たちのSCARZやeスポーツとコラボレーションする形で、ビジネスチャンスに変えていけたらと思っています。
プロとしての収入アップ、市民権獲得…eスポーツが目指す未来は
藤元 日本のeスポーツのプロ選手の皆さんは、収入としてはどのくらいなのでしょうか。どのぐらいの割合の方が、eスポーツだけで食べていけるような状況になっているんですか?
金濱 年収としては、稼いでる方でも年に数千万ぐらいで、日本で億単位のプロ選手はほとんどいないのではないでしょうか。
日本の場合は、ストリーマーの皆さんのように、やはり配信やグッズ販売など、いろいろなビジネスをうまく展開できれば、そこまでいくのではないかと感じます。海外だと億単位の収入を得ているプレーヤーもたくさんいるので、日本もそれぐらいの水準にしていかないと、世界で勝てるプレーヤーが他の国に行ってしまうといった懸念もあります。そこは日本の課題であり、今後の伸びしろだと感じています。
藤本 スポンサー視点で、モスフードサービスさんとして例えば、選手個人へのスポンサードも、将来的にはあり得るのでしょうか。
大楽 おそらく、基本的にはそれはないですね。元々、タレントさん個人とのプロモーションやコラボレーションをやっていたこともあるのですが、ある一定層に広く訴求しようと思うと、やはり難しい部分があるんです。現在は対象をクラスターとして捉え、Z世代の方たちに一気に私たちのことを知っていただこうという方法で取り組んでいます。
江端 先ほど大楽さんのお話しにもありましたが、特に上の世代の方や親御さんからすると、まだまだゲームに対するネガティブな印象があり、「ゲームばっかりやっていないで勉強しなさい」と子どもが怒られる、なんていう場面も日常的にあると思います。一方で、eスポーツには、チームでコミュニケーションをとったり、戦略を練ったり、グローバルで戦う中で語学が必要とされたり、教育的な観点でもプラスの要素がたくさんあります。そのへんをもっとアピールできれば、例えばスポンサーを獲得しやすくなるなど、eスポーツ普及の後押しになるのではと個人的に感じます。そのあたりは、どのようにお考えですか?
金濱 私たちは地元の自治体からご依頼いただいて、地域の小学校向けに講演をすることがよくあるのですが、その際、多くの親御さんから「ゲームが家庭内でのトラブルのもとになっている」というご相談をいただくんです。
「ゲームは1日1時間」などのルールを決めているご家庭も多いと思いますが、細かい点で言うと、ゲームによっては時間の区切りが内容と合わないこともあるので、「1日何試合まで」とか、ゲームに合わせた決まりにすることで、お子さんがルールを守りやすくなることもあります。そのように、親御さんもゲームのことを知っていただくと、家庭内でルールを作りやすくなるのではないかと思います。
またおっしゃるように、eスポーツにはコミュニケーション力や人間力も必要です。プロとして採用するかどうか判断するトライアウトの期間では、人の話を素直に聞けるか、自分を省みて改善していけるか、そういう点を見ています。やはり、試合で勝てるのはそういう点で長けているプレーヤーですし、1人でこもってゲームばかりしているプレーヤーはある程度までいけてもプロとしてはなかなか通用しないことが多いんです。さらに、SCARZは公用語が英語なので、選手としてはいい方でも、語学がハードルになってしまうケースも最近は増えています。
先ほどの講演でも、お子さんに向けて、ゲームばかりするのではなくて学校で勉強したり部活したりすることが必要だということや、SCARZは英語が話せないと入れないということもお伝えするようにしています。
大崎 私たちはサイバーエージェントのグループとしてAbemaというプラットフォームがあり、テレビ朝日さんという地上波とのつながりもあるので、いわゆる市民権を得るためにはどういう風に情報を届けていく必要があるのか、常日頃ディスカッションしています。
まだ明確な回答はないのですが、いきなり「マス化」はハードルが高いと思うのですが、今の若者、Z世代に対してはコネクトできるようになってきているので、一部だけに開かれたドメインかもしれませんが、少しずつトライアンドエラーを繰り返しながらより認知していただくために工夫する必要があるかなと思っています。
まとめ
Z世代から支持され、成長を続けるeスポーツ業界。ゲーム業界の枠を超えて、若者とのコミュニケーション促進を目指す多くの企業が今、熱い視線を向けている。
eスポーツが今後、どのような飛躍を遂げ、新しい世界を見せてくれるのか、さらなる活躍が期待される。
※本イベントは、グラフィックレコーディングの第一人者、松田海氏により、グラフィックレコーディング されています。
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